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形而下の戦い〜落ちる日〜


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銃声は……現時点まで3発。
もしかしたら、既に誰か死んだかもしれない。
それだけの危惧を持たせるのに十分な効果を、銃声という奴は持っていた。
走る……。
どこだ? どこで交戦してるんだ?
少年はただ音がした、と自分が感じた方向に走った。
だが……なにも見えてこない。
「く……そう……」
走りながら吐く文句。
募る苛立ち。
だが……、容赦なく状況は進み――。

ドン! ドン!

「!」

大分……近くなったか。
だけどまだ分からない。
どこだ? どこなんだ!?

そんなことを呟いても、誰も応えてくれない。

銃声が消えたそこら一帯は、ずいぶんと静かに感じた。
もうこれで5発だ。
事態は、明らかにまずい方向に流れている。
少年は立ち止まっていた足を再び走らせる。
なるべく物音を立てないように繊細に……、しかし全力で。

ザ……ザ……ザ……。


何かを引きずるような音が、聞こえる。
いや、これは足音、か?

少年は再び立ち止まる。
そしてあたりに気を配る。

「誰か……、いるのか?」
あたりに通る声でそう言った。
あえてそういうことで、逆に奇襲される危険性を少なくしようとしたのだ。

…………。

だが、辺りからそれに”誰か”が応じる様子は無く。

「…………くっ」
少年は――柄にも無く痺れを切らしたのか――その場を走り去った。……そうして、七瀬に手ひどく痛めつけられた弥生は、何とか少年と対峙することなく
その場を離れることに成功した。

硝煙の匂いを辿る。
流れてくる方角は、もうはっきり分かる。
目的地は……近い。

そして、少年はとうとう”その場所”へ抜け出た。

「これ……は……」

人が並んでいる。
ならんで倒れている。
既に、事切れて。

片方は女の子だ。
ぼくは見たことが無い子だ。
優しそうな子に見える。
胸から血を流して……、恐らく、銃でやられたのだろう。
なのに、その死に際は、とても安らかに見えて。

そしてもう一人は、ぼくも知っている男だった。

「……巳……間」
黒いコートをを着て、なにやらずいぶんと変わり果てた男が……そこにいた。
まさかお前がやったのか……。
そんな疑念がよぎる。
だが、死者を疑うことになんの意味も無いことを少年は知っていた。

お前は、誰よりも自由を欲していたもんな……。

そんな良祐の無念を、少年は汲んでやりたいと思った。
――生きるために、良祐がやってきた非道も知らずに。

少年は良祐の死体に近寄ると、その胸元をがさがさと漁り始めた。
「……あった」
彼の首にペンダント上にかけられたもの……鍵。
「せめて、これだけでも持って行かせてもらう」
少年は今度はそれを自分の首にかけた。


少年は、そのあと少しの時間を費やして大きな穴を二つ、地面にあけた。
一つは名も知らない少女のために、もう一つは巳間のために。

二人をその穴の中に仰向けに安置し、胸の前で両手を組ませた。

この島に来てから、なんだか弔ってばかりだ――。

少年はふと思い立ったように、片手に持っていた本を開いた。

「――かつて悩めた人よ、かつて憂いた人よ。
   我らは常しえにあなたのことを敬い続ける。
   我らはけして涙を零すことなく。
   我らはけして笑みを絶やすことなく。
   ただあなたの生きた証を辿り続けるだろう――」

偽典の中の一節。それを二人の死者に捧げた。
こんなところでこんなものが役に立つなんて……ね。

少年は……笑っていたのだろうか?

使い終えた本を仕舞い、少年は今度こそ二人を埋葬した。

命が燃え尽きたところ……、
その痕跡は、あまりにも静かで切なかった。

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