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凛とした空気の中、鳥の声だけが森中に響き渡っていた。

深山雪見の死を看取りながら、往人は考えていた。

(俺はここまでできるのか。親友の敵を取るためだけに、ここまで…。)


「俺はこのままでいいのか…?」

誰に問うこともなくつぶやいてみる。
自分の信念を貫くあまり、犠牲にしたものが大きすぎた。
みちるも、遠野も守れなかった。
聖も死んでしまった。
何も考えたくなかった。それなのに…『浜辺にいこっ』
『どうして』
『遊びたいから』
『遊びって何をするんだ』
『だから浜辺で遊ぶの、かけっこしたり、水の掛けあいしたり』
『そして最後に。』
『また明日、ってお別れするんです。』


「観鈴…!」『わたしと往人さん、友達。にははっ』「観鈴…」
もう一度繰り返してみる。

しかし…

俺に観鈴を守る権利はあるのだろうか。
すでに4人も殺めてしまったこの俺に…。

果てしなく続くかと思われた自問自答。
終わりは突然にやってきた。


がさっ


突然現れた黒い影に、目を奪われ現実に引き戻された。

「なんだおまえ…」

目と目が合う。
そこはかとなく不条理な空気があたりを包んでいた。

なんでこんな所にいるんだろう。
いつも笑いかけてくれる少女はもういない。
目の前にいるのは、黒い変な恰好をした男だけ。
ひどく落ち込んでるようだが、どことなく他人じゃ無いような気がするのは気のせいだろうか。

「なんだおまえ…」
ナンダオマエ
僕に向かって言ってるんだろうか?
お前とは失礼な。
むかついたので、蹴りを入れてやることにした。

バサバサ、どすっ

「くっ…、ゴホッゴホッ」

ふ、見たか。電光石火のみぞおち蹴り!
「……カラスの分際で人間様にたてつくとは、見上げた度胸だな」

じゃき

………
黒い筒状のものを僕に向けてきた。
よくわからないが、直感で危ないモノと判断。
愛想をふりまく作戦に出よう。

バサバサ

「うお、肩に乗るなっ!」

なぜか振り落とそうと、僕の体をつかんで引き剥がそうとする。
いつもの少女は、これで喜んでいるのに、この男は嫌そうな顔をする。なぜだ。
とにかくこっちも振り落とされまいと必死になる。

バッサバッサ

「いてっ!爪を食い込ませるのをやめろ!」

バッサバッサバッサ

「だあ!わかった!乗せてやるから爪を立てるな!」

バサバサ

ようやく落ち着いた。男はとても嬉しそうだ。

「こんな姿、他人に見られたらいい笑い者だ…」

よほど嬉しいらしい。
肩を振るわせ目を伏せている。

「まあいい、お前のおかげで踏ん切りがついた。」

?この男は何を言っているのだろう。

「待ってろよ。観鈴」
そう言いながら、手元の小さい箱状のものに視線を落とす男。

ミスズ、その響きは、僕に何かすごく懐かしいことを思い出させる。
あの少女の名前、だったか?無償に興奮してきた。

バッサバッサ

「痛え!爪を立てるな!」

男の声が森に響き渡っていた―――。

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