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おもいで


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「これで……人をコロセル……」
誰もいない住宅街。
人のいなくなった喫茶店。
「あなたは……私を裏切らないわよね……」
小銃とナイフを見つめながら夢心地で横へ言葉を投げかける。
白蛇。
みちるが――あの愛らしい少女が消える直前に残した友達。
「人はもう、信じられません。
やっぱり…信じられませんでした。」
虚ろな瞳、もう流れることも忘れてしまった涙。
「秋子さんも…私を…見捨てたんですね…」

――……琴音ちゃん?
――……は、はいっ!?
――名雪を、連れ戻してきてくれる?
――ありがとう。それじゃ、お願いね。

秋子との言葉が思い浮かんだ。
あの時から、少しだけささくれのように涌き出た疑念。
琴音は言葉どおりに名雪を探した。だけど…
(どうして…私だけ…一人で探しに行かされたのですか?)

――大丈夫よ琴音ちゃん。私を裏切っても、名雪を裏切らない限り、あなたは 私が守るから。
  そのかわり――名雪を手に掛けたときは、本当の恐怖を教えてあげます――

(秋子さんは…守ってはくれなかった…それどころか…)
琴音は、白蛇のポチを握りしめる。
(名雪さんに……裏切られたんですから……)
ビチビチッ!!
苦しそうに、ポチが左右に体を揺らす。
「あっ…ごめん……ごめんね…ポチ。」
琴音がポチを抱きしめる。今度は、軽く。
「やっぱり…動物だけは裏切らないもの…藤田さんが…あかりさんが、特別だっただけ。」
唯一信じるに値する少年少女の顔を思い浮かべる。
「ポチ……私と…いっしょに行こうね。ずっと、いっしょに。
みちるちゃんとの…約束だもんね。」

琴音には、みちるがどうして消えたのかは分からない。
だけど、みちるの名前が放送で呼ばれていた……
それは――死。

「みちるちゃんもね…私をもう裏切らないもの。
ポチ、人はね…みんな裏切るの。でもね、死んだらね、もう裏切らないの。
みちるちゃんは…私とお友達だから…裏切らなくなったのよ。」
ポチの頭をを優しく愛でる。
「だからね、みんな死ねばいいの。そうすれば裏切られない。
みんな、みんな、お友達になれるのよ?」
一語一句、言い聞かせるようにささやきかける。
「そして、藤田さんに…あかりさんに…ほめてもらいたいな。
私はまた、人間不信に陥っちゃったけど…自分の力で元に戻りましたって。
私は弱いから、だけどね…強くなりたいんだ。」
決意を新たにして、琴音が立ちあがる。
「この喫茶店ともお別れ――。少しの間でしたが…楽しかった。」
まだ聞こえてくるようなあの楽しかった笑い声。

――にょわ〜っ、動いた動いたっ!
――動物だから、もちろん動くと思います。
――琴音ちゃん、動物好きなの?私もなんだよ!ねこさんとか。
――名雪は、ねこアレルギーですけどね。
――う〜、お母さん!ひどい〜ひどい〜!!

「さよなら……行こう、ポチ。」
白蛇を首に巻いて、喫茶店の入り口に立つ。
「あれ……なんか変だな……」
枯れたはずの涙が溢れて――
「こんな…はずじゃなかったのにな……どうしてこうなっちゃったんだろう…
藤田さん、藤田さんに会いたい……」
少女の嗚咽は、楽しかったはずの喫茶店の中にずっと響いていた……。

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