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これからを考えて


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天沢郁未(003)は走るスピードを少しずつ緩めて、周りを見回した。
「ハァ、ハァ、ハァ」
息がもう完全に上がっている。
「ハァ、ハァ・・・あの子・・・見失っちゃったか」
水瀬秋子の元から立ち去って、郁未はあの首を締められていた少女を追いかけた。
多少のビハインドあったとはいえ、足の速さには自身がある。追いつけると思ったのだが・・・
「方向を、間違えたのかな・・・それとも、どこかに、隠れたのかも・・・」
あの子の事は心配だった。あんな小さい子まで殺し合いをさせられているなんて吐き気がする。できることならば保護したいと思った。けど、
刹那的な感情で行動するべきじゃない、とあいつは言った。
他人のことに気をとられ過ぎると自分の目的が果たせなくなる、と晴香はいった。
それは正しい。今、この状況では確かに正しい。
お母さんを助けられなかった、あの少女を保護できなかった、水瀬名雪を傷つけた。
もうそれは認めるしかない。どんなに辛くても、もうそれは過去のこと。変えることのできないこと。
だから、いいかげん落ちついて、今からのことを考えないと。
水瀬秋子と対峙したとき、極限の怒りと恐怖の中で、郁未の口をついたのは友人達のことだった。
それが、多分、
郁未の本音、
郁未の核、
郁未の今なすべきことだ。
水瀬秋子のことは今は忘れよう。
もう一度あったときなおも怒りが身を焼くならば、それはきっと刹那的ではない感情。そのときは殺しあえばいい。
とにかく今は、
「一休みね」
ブランクが長いとはいえ、陸上部の元エース。体力は結構自信がある。
だが、もうそれも限界だった。とにかく今は腰をおろして何か口に入れないと。
(正直食欲なんてないんだけどね)
木立の中細々と流れる川の脇に腰を下ろしバックをあけた。
「結構食料は残ってたはずよね」
水のほうもたびたび水場を見つけては補充していた。一人暮らしの長い郁未は、その点結構目端の利くほうだ。
なのに、なかった。
目をこすってみて、もう一度中身をのぞく。
食料も水も、かけらもなかった。
数秒黙り込んだ後、郁未はようやく一つの理解に達する。
「・・・あの・・・ガキ・・・」

川で水を飲んで、郁未は一息ついた。多少はらわたが煮えくりかえっているような気もするけれど。
「さて、これからどうするか・・・」
軽いストレッチをしながら、郁未は考える。
まず、由依。怪我をしているのにもかかわらずおいてきてしまった。
けれど・・・彼女は今耕一たちと一緒にいる。
耕一は強い。それに、おそらく合流したであろう折原浩平は銃を持っていた。
今、郁未が由依のそばにいても、それは唯一の戦力ということにはならないだろう。
水瀬秋子という敵を作った今では逆にマイナスという考えもある。
「ごめん・・・由依」
郁未はちくりという心の痛みを無視して、由依のことを頭から締め出した。
次に、晴香。
「晴香だったら、どんな行動をとるだろう? 」
おそらくは二つ。
兄の良祐を探すか、高槻に挑むかだ。
もし彼女が兄を探しているというのならば、彼女に合流するには、何のあてもなう島をさまよう以上のことはできない。
だが、もし高槻に挑むというならば。
晴香の場合なら、何の計画もなくただ突撃するだけ、というのはありえた。
だが、その場合、晴香は失敗して死んでいる。高槻は死んでないのだから。
晴香は死んではいない、少なくとも前回の放送までは。ならばこの可能性も薄いか。
(いや、無理だと断念して晴香が引いた可能性も十分にあるか・・・)
あるいは、晴香にもっとクレバーな仲間ができて、今現在好機を狙っている可能性もある。
それならば、郁未の助力は晴香にとって願ってもないことだろう。
「結局は、高槻を追えということね。」
晴香に合流するつもりならばそれが一番可能性の高い行動だろう。

最後は・・・耕一たちのそばから離れることになった原因。葉子だ。
「まさか・・・葉子さんがジョーカーだなんて」
そりゃ確かに葉子さんはFARGO一筋な人で、FARGOに入会したのも消費税導入より前らしいけど・・・
でも、FARGOで分かれたときのあの葉子さんの笑顔が偽者だったなんて信じたくない・・・
郁未は頭を振った。
「だめよ郁未、そんなふうに考えちゃだめ」
今は現実だけを見なくてはならない。今は感情は排さなければならない。甘い観測は捨てるべきだ。
問題提起。葉子さんはジョーカーか?
回答。わからない。
ならば問題を変えよう。自分がジョーカーだったとして、折平浩平達に「高槻を倒す」などと嘘をつくか?私に伝言を頼むか?
回答。否。そんな嘘はつかないだろう。
この椅子取りゲームで殺し合いを加速させたいなら、出場者に人間不信を抱かせ、他人を殺すことでしか生き残れないと思わせるべきだ。
そこで、折平浩平達に高槻が死ぬかもしれないという希望を与えてどうする?天沢郁未という信頼できる人間を教えてどうする?
もし嘘をつくならば、もう既にマーダーがいるとか、ジョーカーがいるとかそういうことをいうべきだろう。
ここで確認。自分は甘い感情から希望的な観測を抱いてないか?
・・・否。今の考察は完全に理屈だけで行ったと断言できる。
OK、では葉子さんはジョーカーではないとして話を進めよう。

問題提起。葉子さんは本当に高槻を倒しにいったのか?
回答。YES。葉子さんは高槻を倒しにいった。いくら考えても浩平たちに嘘をつく理由が思いつかない。
問題提起。では、葉子さんはどうしている?なぜ葉子さんの死を告げる放送もなく高槻も死んでいない?
回答。・・・わからない。あまりに情報が少なすぎる。
ただいえることはある。葉子さんは無謀な勝負をする人ではないということだ。
いや、葉子さんとて感情的になることは、多分ある。見たことはないが。
だが、彼女は『約束』していったのだ。葉子さんは大言を吐く人ではない。ならば、
「勝算があったの?それとも今もまだ勝算があるの?」
葉子さんがFARGOにいた経歴を考えれば、自分の知らない情報を葉子さんは持っているかもしれない。
これは、さすがに希望的観測かもしれないな、とは思う。だが、とにかく、
「結局は、これも高槻か。」
ならば、最後の問題。高槻はどこにいる?
もし、島の中にいるというならば高槻は相当な危険を冒している。
出場者だって結構強力な武器を持っているものもいるのだから。
無論胃の爆弾を使えば自分のみは守れるだろうが、それならばこのエリアには近づくな、という指示ぐらい出るんじゃないだろうか?
(ひょっとして・・・高槻はもうこの島には・・・)
いや、やめよう。郁未は思った。
軽薄な推理は窮地を招くだけだ。それが元で耕一たちと別れることになったではないか。
「もう少し情報がいるか・・・スタート地点・・・あっちだったわよね」
郁未は疲れた体をおしてゆっくりと立ち上がった。

【天沢郁未 スタート地点へ向かう】

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