始まりの地点で


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 ガサガサ。
「うー…まだかなあ…」
 詩子は森の中を歩いていた。
 少年が戻ってくる保証はない。考えたくはないが、最悪の場合もあり得る。
 確かにここは見通しはいいが、それは向こうからも同じと言うことだ。ロクな武器もないこの状況でおかしな奴に見つかったら、一巻の終わりかも知れない。
 それに何より、じっとしていても何も始まらない。
 そう判断した詩子は、結局森の中に入ってみることにしたのだった。
「うーん…おとなしく待ってた方がよかったかなあ…」
 森は思ったより深かった。もうかなり歩いているが、なかなか出口は見つからない。
 いい加減歩き疲れた頃、
「ふう…! あっ!」
 森の切れ目が見えてきた。その向こうには、なにやら建物らしき影。
「はあ…やっと抜けられるよ…」
 森を抜けた詩子の目に飛び込んできたのは。
「…ここって確か…」
 その建物は、最初に集められ、この狂った企画を知らされた、あのホールだった。

「…誰もいないね」
 ホールは既にもぬけの空となっていた。ゲームの最初にあれだけいた兵は一人もいない。
なにやら細々とあった物も全て撤収されており、そこに残っていた物は、わずか3つだけだった。
 ──1つは、名も知らぬ少女の死体。ゲームの始まる前に突然殺されてしまった少女。すでに死体は腐敗が進んでおり、悪臭が鼻を突く。
 そして、もう2つは、そこからだいぶ離れた、部屋の隅にまとめて置かれていた。
「誰のだろう、これ」
 そこに放置されていたのは、2つの鞄。しかし、まだ新しく、しかも上には埃が積もっている。誰かが手を付けた様子はない。
 そして、部屋に放置された死体。それで、詩子は理解した。
 そうか、これは余った鞄だ。もともとあの子に支給される予定の物が、死んだから余ったんだ。
 でも、何で2つなんだろう。もう一人誰か死んだのかな? それとも単なる数え間違いか、予備品だったんだろうか。そこまではわからない。
 とにかく、今の詩子にこれはありがたかった。あわよくばまともな武器が調達出来るかも知れない。
 早速一つ目の鞄を開けてみる。
 水や食料と共に出てきた物は、何かの機械と、燃料のようなもの。
 説明書によると、火炎放射器らしい。これは、けっこう使えるかも知れない。
 そして、もう一つの鞄の中から出てきた物は。
「…何これ…」
 表には人の肖像、裏には鳥の絵の描かれた紙の束。分厚い札束だった。
 詩子は思わず苦笑いをしてしまう。こんな所でお金が何の役に立つのか。これで人を買収して味方に付けろとでも言うのか?
 まあ、火種くらいにはなるかも知れない。一応持っていってもいいだろう。
 詩子は、部屋の死体に向かって心の中で弔い、ホールを後にした。

「さてと…茜、どこにいるのかな…」

【詩子 火炎放射器・札束入手】

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