King of Kings
「かず…き…?」
詠美はその場に座り込む。
期待していたのだ。
和樹はきっと楓より自分が大事。
それを証明するために追ってきてくれる。
それは日常においては可愛い行為だったかもしれない。
相手の愛を確かめ、自分がより相手を愛するための通過点になったかもしれない。
和樹も可愛いいたずらと笑ってくれたかもしれない。
頭の中で描いていたのは追ってくる和樹。
頭の中で描いていたのは和樹の愛の囁き。
もう二度と手に入らないものたち。
目の前で繰り広げられたのは。
現実感のない悪夢。
全てが見終わったのにまだ覚めぬ悪夢。
和樹の手を握る。
ぎゅっ…
温かい。まだ生きているかのようだ。
ぎゅっ…
(え…?)
握り返された。
「和樹!?」
しかし、骸が動くことなどないのだ。
それは詠美による妄想。
「和樹…。好き…」
頭は首に支えられていない。
支えているのは詠美の両手。
「和樹…。愛してるよ…」
唇を重ねる。
血の味がした。
抱きしめる。
抱きしめる…。
「愛してる…。和樹…」
もう一度言う。
俺も愛してるぜ。
詠美の耳だけに聞こえた返事。
涙が止まらない。
その声が聞こえてまた涙が出た。
和樹の死を実感してしまった。
雫が頬を伝う。
だが、勇気が出た。
和樹の声が勇気をくれた。
「和樹のしたかったこと。楓ちゃんのしたかったこと。私が受け継ぐよ」
立ちあがる。
「私は同人界のKing of Kings! 詠美ちゃん様なのよ!」
自分を奮い立たせる。
「このつまんないゲームのストーリーは!」
瞳に光が戻る。
「この詠美ちゃん様が描き直してやるんだから!!」
(もう大丈夫。だから…。心配しないで見ててね。和樹…)
詠美の心に決意が宿った。