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小さな手掛かり


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もうすぐ夜の帳が降りる。
時が経つにつれ、蝉丸にとっては馴染みのある香りが島を覆っていく。
――死臭。
先刻の放送によれば、あれからさらに増えた。
既におよそ50人程の骸がこの島には転がっている。
中には野ざらしになっているものも少なくあるまい。
その中には、高子や夕霧も混じっているのだろう。見つけてやれれば、
埋葬くらいはしてやれるだろうが……。

この日中の間、蝉丸と月代は島の海岸沿いを歩いていた。
発端となったのは月代の提案だ。

「(・∀・)探す……といっても、あの高槻って人……どこにいるん
 だろう」
「分からん。もしかしたら、この島にはいないのかもしれん」
「(・∀・)でも、最初はいたよね? 船とかは無いって言ってたけど、
 この島から出るための別の手段があるんじゃないかな?」
「そうかもしれん」
「(・∀・)やっぱり、ヘリコプターとかかなぁ」
「ヘリコプター……?」
「(・∀・)知らない? こう、プロペラが上についてて、それがぐるぐ
 る回って飛ぶの」
「……ああ、回転翼機のことか」

確か、独逸や米軍がそのような兵器を開発していたと聞いた覚えがある。
滑走路を要しないのならばこの島の何処かにあっても気付き難いだろう。
だが、飛行機の類はいざとなれば簡単に飛行不能にできる。地上にあると
は考えがたい。それに、そんなものが飛んだのならば蝉丸が気付かないは
ずがない。

「(・∀・)だったら、飛行船で空からみてるとか…」
「そのようなものも、昨日から見ていない」

「(・∀・)地下道が海の下に通ってるとか…」
「海の底に道を造るのには非常に手間がかかるはずだ。ここは、他の陸地と
 は少なくとも数里は離れている。あの仙命樹の洞窟でもそこまで長くはな
 かった」

「(・∀・)そっか。じゃあ後は、潜水艦…とか」
「潜水艦……」
「(・∀・)そうそう。どっかの崖下の海中とかにでっかい秘密基地があっ
 て、そういうところに隠してあるんじゃないかな…って」
「秘密基地、か」

かつて特殊部隊の一員として、大陸で戦った日々が脳裏によぎる。蝉丸達
強化兵に与えられた使命の多くは表沙汰には出来ない性質のものだった。
それこそまるで冒険小説の産物かと思うような「秘密基地」に潜入・破壊
せよ、との命を受けたこともある。中には自分達と同じように強化された
常人ならぬ相手もいた。……そう、あれは確か……黒幽霊団とか……

過去の回想に浸りかけた蝉丸に、すねたような月代の言葉があびせられた。
「(・∀・)……だから、海沿いに歩いて調べてみようっ、て。……蝉丸、
 聞いてる? ねぇっ!」
「……ああ。分かった」

もし、高槻某がこの島にまだ居るとすれば、何らかの脱出手段を有してい
ると考えた方が自然である。様々な非常事態も考えられうるこの状況で、
「仲間に連絡すれば迎えがやってくる」などというような悠長な状態で構
えているとは思い難い。即座に逃げ出せるようにしているはずだ。ならば、
長期間の滞在が可能であり、かつ脱出手段がすぐ側にある何処かに隠れて
いるのだろう。潜水艦ならばそれらの条件は充分に満たしている。

特に手がかりがあるわけではない。ならば、この方法も悪くはあるまい。
こうして、何回かの休息をはさみながら二人は島の周囲を探り歩いた。
途中で黒焦げになった死体や、怪しい機械の残骸を見つけたりしたが、脱
出の手がかりになりそうなものは見つからなかった。

なお。先刻、自動車らしきものの音がしたため向かった先で、固く抱き合
う一組の男女を見かけはしたのだが、それに月代が気付く前に進路を変更
し、敢えて無視した。……先ほどからやけに自分にくっついてくる月代を
見ていると、なぜか、非常に厄介なことになりそうな気がしたので。

そして海沿いの、ある尾根上にたどりついた時。
月代が、竹槍を握りしめて小声で囁いた。
「(・∀・)蝉丸。なんか音が……しない?」
「む?」
月代も微量とはいえ仙命樹を持っている身だ。常人よりその感覚は鋭い。
蝉丸は耳を澄ます。
小さな音が聴こえた。少し向こうからの波音に紛れがちになるが、その音
は足下の地面――そのさらに下から聞こえた。

…カン。カン。カンッ…。
…ピーッ、ピーッ、ピーッ!

金属を叩くような、小さな澄んだ音。
そして、何らかの機械が出すような無機的な音。
(これは…)
そしてさらに気付く。周囲の土が、木々が――新しいものであることに。
岩にも苔がついていない。寺社にある枯山水の置物でもここまで綺麗では
あるまい。そして木も、樹齢の割には海風による影響が殆ど見られない。
これらは、置き替えられたものだ。
この下に「何か」が造られた後に。それは、おそらく――。

蝉丸は月代の耳元に口をよせ、小声で囁いた。
(…月代)
((・∀・)なに、せみまる)
(おそらく、この下に何かがある。だが二人では心許ない。ここはいった
 ん退き、他の者を探す)

腹中の爆薬のことも気になる。二人だけで突入しようとしたところで、き
よみのように爆発させられてはたまらない。せめて、この事を他の誰かに
伝え、策を練る必要がある。
余りここに長居して、こちらの居場所が分かっているらしい高槻某に疑念
を与えるわけにもいかない。こちらが気付いた事に気付かれ、逃げられて
も困る。

相手には今の会話までは聞き取れまい、と蝉丸は考えていた。荷物や服に
ついても調べたが、特に妙なものは見つからなかった。腹中に仕込んだも
のに仮に音を聞き取る機能があったとしても、大したものではないはずだ。
こちらの行動は、おそらく――この島に来て何度か感じた、視線の持ち主
達によって向こうに伝えられているのだろう。殺意のない、だが冷ややか
な同種の視線。蝉丸はこれが「監視者」のものではないかと考えていた。

もっとも、蝉丸は今の時代の技術には疎い。もしかしたら間違っているの
かもしれなかったが、そこまで考慮する余裕はさすがになかった。

(――もしかしたら、この「ぱそこん」が何かの役に立つのかもしれんが、
俺には分からん。誰か、これを扱える者に出会うことができれば…)


【蝉丸・月代 高槻の拠点の一つを発見、立ち去る】

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