夜が来る
「と、いうわけで紆余曲折を経て、私達は今も一緒に行動している――」
「誰に説明してるのよ……しかもはしょりすぎ!」
杜若きよみ(黒)、観月マナ、霧島佳乃……
三人は、何故かあのままなし崩し的に一緒に行動することになっていた。
「いわゆる三人寄らば、かしましい…という奴ね」
「あなた…キャラクター変わってない?」
きよみは、先程からとんちんかんな台詞を吐いてはマナを困らせていた。
「あはは、そんな二人には漫才師一号さん、二号さんに任命するよぉ〜」
佳乃は佳乃でこの状況を楽しんでいるかのように振舞うものだから…
「…もう、いいわ…勝手に言ってて…」
マナはただ頭を抱えるばかりだった。
先の放送――きよみの名前が入っていた…
ここにいるきよみではない。
まったく同姓同名の、別のきよみ――。
それを聞かれたくない所為からなのかもしれない。
だから、事の真偽を聞くのはマナにははばかられた。
「そういえばきよみさん、さっき放送で呼び出しがあったよぉ〜」
否、だけになった。
「ん…そうね…私には関係ないのよ」
さらりと言ってのけるきよみ。
その瞳の奥に、寂しげな瞳があることをマナは見逃さなかった。
(とても…そうには見えないわよ!)
まるで目標を見失ってしまったかのような空虚な瞳……
マナはそれ以上その話題を続けることはできなかった。
「で…お姉ちゃんのところ…行くの?」
佳乃が、めずらしく真面目に二人にそう振る。
「そう……ね」
マナにも答えられない。本当に今この時にそこへと行くべきなのだろうか……
「まあ、なるようになるわよ…たとえどんな宿命が待っていても、
結果は自分で動いて出すものよ。その先に待っているのが不幸だけでもね。
私はもう、現世にいること自体不幸だから…怖くないけどね」
「そんなことっ……」
言うものじゃない!!と、マナは続けるつもりだったが、結局何も言うことはできなかった。
きよみの、その表情に何も言わせないだけの迫力を感じたから。
「まあ、そう決め付けたものでもないんだけどね。好きにしたら?
私は暇だし、一人でいるよりは安全ね、行くなら付き合うわよ?」
(………さっきまで私に殺すだの殺されるだの言ってたくせに……なんて勝手な女!)
「何か言った?おチビちゃん」
「………(怒)」
マナの伝家の宝刀…スネ蹴りと、きよみの悪口と共に繰り出される平手打ちは小一時間にも及んだ…
無論、佳乃が止めに入ってようやく収拾がついたことは言うまでもない。
「決めたよ…マナちゃん、お姉ちゃんのところに…私行く」
もちろん精神的ではなく、肉体的に…という意味だ。
決意の瞳。もう涙は溢れていなかった。
「分かったわ……行こう」
マナもまた、強くあるために…そう判断を下した。
(センセイに…笑われたくないもん)
「こっちよ…」
マナが先頭に立って、あたりに気を配りながら歩き出す。
「それと……」
何度もくじけそうになって、それでもマナがマナでいられるのは……
聖だけのおかげじゃない。
「ありがとね…」
ボソリと呟く言葉。かすかな、恥じらいで消えてしまいそうな声。
「ふう、これだからおチビは…」
「……(怒)」
その相手は、知って知らずかただ軽く悪態をつく。
今度は揉めなかった、お互いに。
ふと佳乃は思う。涌き出た疑問、知らない夜の記憶――。
(あれぇ…何か忘れてる…そうだ、お手伝いさん一号さん…どこに行っちゃったんだろう…
昨日の夜、記憶がなくなったあたりからなんかおかしいなぁ。なんも覚えてないや。
……ま、いいか)
思考の混乱の最中、梓はボディーガードメイド1号から格下げされていた……
日は沈み、また夜が来る。
参加者達の心を震えあがらせる真の闇夜が――。