残照


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沈みかけた太陽が最後の光を投げかける一室で。
二つの別れがあった。

「ホントに行っちゃうの?」
心配そうに初音が声をかける。
落ち着いたとはいえ由依の怪我は深く未だに血が滲んだままだ。
「うん。-----ありがとうね、また会おうね-----」
由依は涙をにじませて初音の両手を取る。
物騒だけど、と言いながら初音と二人で服からほどいたダイナマイトを
半分渡す。
「きっと、絶対、会おうね!」
二人は笑顔でお別れした。
お互いダイナマイトを持った手を振って。

「さっさと行きなさいよ」
憮然とした表情で七瀬が声をかける。
目覚めたとはいえ二人の頬は盛大に腫れたままだ。
「ふん。-----言われないでも、出て行くわよ。」
晴香は目を怒らせて七瀬を睨む。
喧嘩売ってんの!?と言いながら「しっしっ」とする七瀬の手をはたく。
「次はきっと、絶対、勝つわよ!」
二人は火花を散らして別れた。
鉄パイプと刀をギラリと夕日に輝かせて。



-----情況を整理しよう。

まず晴香、七瀬が壮絶なダブルKOを演じた後。
二人が目を覚ます前に浩平が高熱を出した。
体調不良のところに大暴れしたためか、純粋に怪我のためなのかは不明。
次に耕一だが、これまた鬼の発動による反動で元気がない。
その後目覚めた二人を加え、由依と初音を司会に(あまり適任ではなかったが)
情報交換することになった。

良祐と、瑞佳の死も語られた。
「良祐のこと、私…全然判らなかったな…」
黒いコートの男。
巳間良祐は遠い昔に晴香と別れ、そのまま逝ってしまった。
多くの人に悲しみを振り撒いて。
もはや、記憶はあまりに遠かった。
自然と涙が流れたが、それほど長い間ではなかった-----と思う。
七瀬だけはその涙を不満そうに見ていたが、それでも何も言わなかった。

くすん、と晴香が鼻を鳴らして。
夕日を背に部屋の隅まで影を流し立ち上がる。
「ごめん」
それは話を中断させたことに対してなのか、それとも七瀬や、ここに居ない
浩平、もしくは瑞佳に対してなのか。
ひょっとしたら良祐に対してなのか。
それは誰にも判らなかったが、そう一言呟いて自らの情況を話しはじめる。

過去。出会い。放送。そこで耕一が意見を挟んだ。
「君らは、あの高槻から特に恨みを買ってるのか?それとも奴を怯えさせる
 何かがあるのか?」
少し考えて晴香は答える。
「良祐や、由依は…巻き添えなんだと思うけど、他のみんなは、たぶん両方ね」
不可視の力、高槻との因縁、それらの概略を説明する。
続けて管理者達を襲撃した事を、仲間が捕らえられた事を-----殺しの契約に
ついても-----話した。

「なんだか、まるで信用ならないじゃない」
高槻の性格を知り、七瀬は呆れたように言う。
「そうだ、それなら葉子さんとやらを追った郁未と合流して反抗したほうがマシ
 なんじゃないのか?もし二人が合流していれば既に攻め込んでる可能性すら
 出てくるとは思わないか?」
ベッドで寝転がりながら耕一が後を引き継ぐ。
かなりだるいのだろう、動きが緩慢である。
「それに人質作戦を取るなら、最初からそうすればよかったんだ。
 ゲームが開始されてから参加者を捕らえなおして人質にする必要があるか?
 例えば初音ちゃんを人質にして開始すれば、柏木家のみんなは今ごろ必死に
 戦っていると思う。-----何か、変だと思うな」

沈んだ表情で思考をめぐらせている晴香に由依が話しかける。
「郁未さんを、探そう?」
これで決まった。
晴香は由依と共に郁未を追う事に決めたのである。

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