熊殺し


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「さて、これからどうするよ?」
二人が去って、がらんとした民家の居間にどっかりと腰を落ち着けて、
北川潤(029番)はこれまた落ち着いた口調で、行動を共にしている宮内レミィ(094番)に話しかけた。
天から降ってきたこのノートパソコンと、そのドライブに挿入されていたCDはいかにも『これは重要ですよ』と
語り掛けてきているようであったが、実際問題他のCDが存在するとして…これは殆ど確定事項だったが、
あと何枚存在するのか、またどうやって探せばいいのか、
当然二人の平凡…と言うよりかは正直多少劣っている頭では考え付く筈は無かった。
そのまま二人して、う〜ん、と唸るだけの時間が過ぎる。
居間に備え付けられていた壁掛けの時計の秒針が振れる音だけが、静寂の中で響いていた。

それでも沈黙は暫く続いたが、ある瞬間北川が「よし!」と突然膝を叩いたので、
レミィはその顔を上げ、「何か思いツイタの?」と訊いた。
北川は自信たっぷりに、「何も思いつかん!」と清々しいぐらいに答えた。
…また、沈黙が二人を包んだ。

北川は考えた。

さて、朝になったら動く、とは言ったものの…どうするよ?
動く、と決めた以上ここに居るのは当然却下だ。一度決めた意見を曲げるなんて男がすたらぁ。
だいたい、ここに居たって何の情報も手に入りゃしない…入るのは死者の名前ぐらいだ、胸クソ悪ぃ。
だったらどうする?当てもなく飛び出すか?
やめとけ、こっちはロクな武器……ロクな、はいらねぇな。武器がない。
ノートパソコンで頭をぶっ叩けば相手をよろめかせる事ぐらいはできるかも知れないが、
死にゃあしないだろうし、だいいち今から必死こいて集めようとしているCDを読みこむのにはコイツが必要だぜ?
だとすると、残ったのは知り合いづてに情報を集めていく作戦か?
顔見知り同士なら、いきなり銃向けられてBANG!ってコトは無いだろうからな。
しかし、それにしても問題がある。肝心要の知り合いが減りすぎた。
相沢と椎名サンは情報を持ってなかったし、美坂は…死んじまった。結局告れなかったなぁ…
住井もだ。ったく、昔貸した5000円返せ(利子付)。今更か。
いかんいかん、感傷に浸っている場合じゃないぞ北川潤、今は生き残った者の事を考えるのが先決だ。
さっきの放送までで名前を呼ばれなかった俺の知り合いって言うと……
水瀬さんはまだ、呼ばれてない筈だよな。確かそのママさんも。
………ってオイ、これだけか?
参った。参加者が半分残ってる状態でたった二人(相沢達を入れて四人)かよ。
宝クジほど、とは言わねぇけど、Totoで3等当てるぐらいには難しいんじゃねえのか?
レミィさんの方は何人知り合いがいるかどうか分からないけど、せいぜい5人ぐらいか?
う〜ん、9/50(およそ)か……もう1人欲しいなぁ……
ん?1人ぐらいじゃ変わらないって?そんな事無いですよ、一桁が二桁になっただけで、
安心しちまうぐらい程度の低いモノなんですよ、人サマの脳味噌ってヤツはね。
さぁ、そうと決まれば思い出せ北川潤!誰か居ないかッ?
誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か…………

「あ゛あ゛ッ!」
また突然北川が大声を張り上げたので、宮内レミィは当然驚いて身体をびくっ、と震わせた。
おそるおそる、レミィが北川に訊いてみる。
「ど……どしたノ、ジュン?」
北川は勢い良く立ちあがり、座ったままのレミィを見下ろす形で喋る。
「……決めた。朝になったら動く」
それはさっきも聞いた、といった表情でレミィが北川の顔を見る。北川は続けた。
「勿論、闇雲に探してもそうそう見つかるワケは無い。
だから、我々の知り合いづてに訊きこんで行こうと思う。他人に見つからない様に移動して、
知り合いの姿を見つけたら声をかける。知らないヤツだったらそこから逃げる。単純な作戦だ。
とりあえず、俺の知り合いはちょっとぽけーっとした感じのある、水瀬さんに、そのマザー。
相沢たちとももう一度会っておきたいな。それと………」
そこで北川は一呼吸置く。レミィも押し黙って北川の次の言葉を待った。
「俺の黄金色の脳も今の今まで忘れていたんだが…そう、熊をも倒せそうな力強さを持った……女のコが居た」


………その頃。
「ぶえっくしょぃ!」
七瀬留美(069番)は盛大なクシャミをして、風邪かしら?と鼻を啜った。
それに折原浩平(014番)が、横になりながらもいつもの悪態を吐く。
「どうした七瀬、風邪か?…にしても乙女らしくないクシャミだな」
例によって、遠慮無しに七瀬の鉄拳が飛ぶのは、その直後であった。
「うるさいわボケェ!」
鈍い音と、それに少し遅れて浩平の絶叫が夜空にこだました。

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