「梓お姉〜ちゃ〜ん」
グラウンドにでた初音が大声で梓に呼びかける。
「あなた…料理している方のお知り合いですか?」
茜がくせっ毛の少女に声をかける。
「たぶん、梓お姉ちゃんだよ。まだちゃんと見てないけど」
「よろしければ、私もタイヤキをいただきたいと思いまして…」
「梓お姉ちゃんならきっと沢山作ってるから大丈夫だと思うよ」
言ってる間に窓から梓が顔を出す。
「初音! 大丈夫だった?」
「うん、でも耕一お兄ちゃんが…」
「何! もしかして…」
「ちょっと寝込んでるだけだよ。でも保健室にいい薬が無いかと思ってきたの。そうそう
タイヤキ食べたいって人がここにいるんだけど…」
三つ編みの少女を指差す。
「OK! たっぷりあるよ」
「うぐぅ、ボク沢山食べたいよぅ」
後ろであゆが呟く。
三人はそうして校舎に入っていった。
…足音がする。
なつみの居る教室の前を三人分の足音。
何やら楽しそうな足音。
なつみにはもう立てられないだろう足音。
悔しくて、暗い教室のドアの陰でナイフを構える。
一番楽しそうな音、先頭を行く一番軽そうな足音。
それが来る瞬間にドアを開けて、飛びかかる。
ガラガラ!
ドアを開けるその音に初音はしゃがみこんだ。
胸を狙ったナイフは外れ、頭の突起を貫く。
七瀬がなつみの右腕をつかむが、そうするまでも無くなつみはナイフを取り落とす。
「どうして…どうしてあなたはそんなに幸せなの?私には…帰るところも無いのに…」
「わたしの両親、交通事故で死んじゃったんだ。でも今のわたしの歳の頃の千鶴
お姉ちゃんは三人の妹を守ろうとしてくれたし、そんなお姉ちゃんに叔父さんも力を
貸してくれたんだ…でも、叔父さんもこの前の夏に自殺しちゃった…
だから、ここで梓お姉ちゃん達に会うのが何より嬉しいの。あなたにも誰か会って
幸せになれる人、いるよね?」