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銃声。叫び。爆発音。
二階で戦いが始まっていた。

「千鶴おねえちゃん…!」
天井を透視しようとしてるかのように険しい表情で空を睨むようにして、歯を
食いしばる千鶴の手を、初音が軽く握る。
「初音…」
躊躇い。守るものの選択。どちらも捨てられないのならば。
どうすれば、良いというのか?
私はどうして、いつもこんな選択を強いられるのだろうか?
自然と握った手に力が入る。
苦しみに、耐えるように。

ぐっ、と。
初音が握り返す。はっとする。
-----この子はこんなに力強かっただろうか?
「あずさお姉ちゃんを、助けに行ってよ」
「私たちなら、だいじょうぶ」
七瀬と初音が笑顔でいう。
「あなた達…」

三人はいくつかの事柄について打ち合わせた。
千鶴はダイナマイトを一本だけ貰い受ける。
「わたし、梓とあゆちゃんのところに行ってくるわ」
改めて声にする。
決意が目に光を与え、身体に力が漲る。
「だから、二人もがんばってね」
暗い教室に似合わぬ明るい笑顔をうかべ、初音を軽く抱擁し、七瀬の髪を
すいてやりながら千鶴ははっきりと口にする。

「それじゃ、7時に」
それは打ち合わせた脱出の時間。
幸い学校だけに時計だけはどこにでもある。離れていても同時行動は可能なのだ。

生きてさえ、いれば。

カラ、と乾いた音をわずかに立てて、千鶴は暗い廊下に出る。
階段を上がろうとしたとき、視界の隅に人影がひっかかった。
(初音を襲った女の子かしら?)
目を細めて闇に目を凝らす。トイレのほうだ。
その人影には特に身を隠そうとか、そういう配慮が全くない。
気配を殺して様子をみる。

「お母さんどこかな、あゆちゃんどこかな?」
人影は、少女は何度もそう繰り返していた。
どこかおかしい…そして何かが気になる。
千鶴は違和感に記憶を掘り返す。
(-----お母さん?!)
母子。そしてあの髪。
あれは、水瀬名雪、なのだろうか?

(縁が、あれば)
秋子と交わした言葉。

思えば、あの出会いなくして今の自分はない。
方向を見失っていた自分の意志が、今の健全な状態にあるのは秋子のおかげでも
あるのだ。
ならば、放ってはおけない。
この小さな闘技場に、この娘が一人で居る事はあまりに危険すぎるから。

「水瀬、名雪ちゃん?」
「うん…おねえさん、だあれ?」
「あなたのお母さんの-----お友達、よ。
 お母さんを、探してるんでしょう?
 私も妹を探しているの。一緒に、探しましょう?」
にっこり笑って手を差し出す。
年下の女の子と仲良くなるのは得意なほうだ。
「うんっ!」
名雪は元気に、この建物の中では異様なほど明るく答え、手を握った。

千鶴は名雪の手を引いて階段を上る。
名雪の手は冷たかった。
初音の手の暖かさが消えて行くような気がした。
(初音…)
不安が走る。だが後戻りはできない。
(無事で居てね、初音)

こうして千鶴が名雪を保護した。
秋子が-----名雪の母が、梓を襲撃していたことも知らずに。

(何だってこんな、とんでも無いのが二人も居るんだ!)
銃撃と斬撃をどうにかやりすごした梓は、引き換えにあちこちをぶつけて
階段を転がり落ちていた。
だいたい二人して、あんな澄ました顔してよくもまあ、えげつないと言うか
なんと言うか。
千鶴姉並みだよ、と声にだして言ったとき。
当人と、目が合った。
「呼んだかしら、梓?」
「ち…千鶴姉…!」
張り付いた笑みと引きつった笑みが交差した。
梓にとって先の立ち回りと同じような、短いけど長い長い緊張の瞬間が続いたが。
その娘、隠し子?と名雪を指差すに至って容赦なくハタかれた。

「ふーん、お母さんかあ」
踊り場で3人身を寄せて軽く情況を交換し合う。
名雪はその間、二人のメイド服のフリフリを嬉しそうにいじってみたり、イチゴサンデー
お願いします、とか言ってみたりしていたのだが…
「とりあえず、あゆの所にいこうよ」
…その一言に反応した。先ほどの異様さを再び発揮して。

「あゆちゃん!?あゆちゃんいるの!?」
叫ぶ名雪。
「知り合いなの?!」
梓が驚く。
千鶴は知っていたが、やはりその反応の異様さに無言で驚く。
「お母さんがね、あゆちゃん連れてきてくれるの、それでね、わたしね…」
その後の台詞を心に留めておくのは、あまりに辛かった。

そして、理解した。
-----名雪が、正気を失っている事を。
(これも、縁なのかしら?)
千鶴は誰にともなく問いかける。
答えは期待していなかった。ただ運命が無機質に横たわっているだけだった。

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