形而下の戦い〜去り際〜
「時間をとってしまったようだな、恐らくこうしてる間にも巳間の妹は歩んでいるはずだ。
もしそれを止められるのなら、ぜひ、そうしてやってくれ」
「はい」
「僕ももう行こう。まだまだすることは多そうだ。
縁があったらまた遭おう。
ところで、郁未には逢ったかい?
「いえ、まだ……」
「そうか。もし逢ったら、僕は高槻を討ちにいくことを伝えておいてくれ」
「……私も同じことを頼もうとしていたのですよ」
少年は目をぱちくりとした。
その表情があまりにも滑稽で、葉子はクスっと笑ってしまった。
「そうかい、ふふ。じゃあ、お互いそうすることにしよう。
じゃあ、ここでお別れだ。
無事に再会出来ることを願っているよ」
少年はすっ、と茂みの中へ入っていく。
「……クローンの高槻に気をつけて下さい。
伏兵は、どこに潜んでいるか分かりません」
去り際の少年に向かって葉子は言った。
後ろを向いたまま、少年は片手を振ってそれに応じた。
そして、直に葉子も立ち去った。
後に残されたのは、二つの墓標だけ。
片方には枝が、片方には花が捧げられている。
何も残らない狂った戦場の片隅で、静かに、とても静かに眠る二人。
埋葬という言葉が、なぜだか今の葉子には、とても暖かく感じられていた。