脱出のために


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 四階には、まだ戦渦は広がっていないようだった。
 階下のあちこちから争う音が聴こえる。
 この学校内に何人いるのかはわからないが、最終目標は生きて帰ること。
 その為に、茜は自分を狙う者を容赦するつもりはなかった。
 だが――
(……軽率すぎました)
 思い返す。
 最初に襲われた時、あの少女は自分を狙っているわけではなかったのだろう。
 しかし、予感があった。
 あそこで殺しておかないと、後で確実に狙われる、と。
 だから、発砲した。
 銃弾が当たらなかったのは何故だろうか。
 予感で人を殺すことを、やはり無意識のうちにためらったのだろうか。
 澪を殺した時からの自分では、そんなことはしなかっただろう。
 祐一と出会ってからだ。中途半端になってしまったのは。
(……私が死んだら、責任、とって下さいね?)

 自分の持ち物を確かめる。
 ナイフ、ガバメントと予備弾丸、高槻から奪ったベレッタと予備マガジン、サイレンサー銃、メリケンサックに……。
(……忘れてました)
 手榴弾が4つ、転がり出てきた。
 早めに気付いていれば、これを使って壁でも破り、脱出できていたのに。
(……迂闊すぎです。やっぱり、こういうことは向いてませんね)
 既に4人の参加者と2人の高槻を殺しておいて、何を思っているんだろう。
 茜は自分の思考のおかしさに、くすりと笑った。
 クラスの男子生徒が見たら、半数は一目惚れ間違いなしの笑顔だった。

 やることは決まった。
 1階の壁を手榴弾で爆破し、脱出する。
 この混戦状況を乗り切る自信はなかった。
(……手強そうな人が何人かいるみたいです。
 ……それに、また後先考えない行動を取るかもしれません)

 慎重に気配を探り、三階へ。

 そもそも一番のミスは、二階に突如躍り出た人影にうろたえ発砲したことだった。
 相手の出方を伺ってからでも、あの距離では充分間に合ったはずなのだ。
 人影の動きが妙に「慣れ」ていたのと、茜自信この状況に混乱していたこともあり、発砲してしまった。
 あの人影に味方がいたなら、茜はそれまで敵に回したことになる。
 信頼できる人間は、ここにはもういなかった。
 全てが、敵とみて間違いなかった。
(……早く、脱出しましょう)

 足音を殺し、二階へ。

(……この銃)
 階段を降りる途中、ガバメントを見て気付いた。
(……弾切れです)
 気付いてよかった。
 もしも知らずに戦闘に巻き込まれていたら、ここぞという時に大きなミスをするところだった。
 弾を交換しようとし、ふと思いとどまる。
 ある一計が、茜の中に浮かび上がった。
 いささか、ギャンブルではあるが、試してみる価値はあった。
 相手が乗ってくるかにかかってはいるが。
 ガバメントの弾倉はそのままにし、サイレンサー銃に持ち替えた。

 一階へ。
 踊り場で。
 その少女と出会った。

「兄さんの仇……見つけた」

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