鬼と羅刹


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点灯する数字。
それは位置座標が同じ-----重なっている事を示す。
017、020、043、061、090、091なんと六つの数字が重なっていた。
少しだけずれた所に021、069。中央少し校庭寄り(昇降口か?)に079。
反対側の階段に移動する013。いや、043も反対側へ向かっている。

もちろん、この部屋には私-----090しかいないはずだ。
それは残る五人、いや四人が上下の部屋に居ると言う事だ。
名雪-----091が、誰かと一緒に居るかもしれない、という事だ。
そこでふと、往人と交わした会話を思い出す。
『それならば、おそらく番号は023,024、025のどれかじゃないかしら』
神尾がその辺りならば。冷や汗が背を伝う。
(柏木が-----20番前後のどれかである可能性はとても、とても高い)

校舎に突入する頃から漠然と抱いていた予感は現実味を増していた。
あの黒髪の鬼と、再びまみえるのだろうか。
017や020、021が姉妹ならば。
私は幾人の鬼を、打倒しなければならないのだろうか。

それでも行かなければならない。
名雪の、ために。

「うぐうぐぅー、狭かったよぅ、怖かったよぅー!」
両手にたいやきを抱えたあゆちゃんがズリズリと引き出される。
「悪い悪い、今度は一緒に行くから、許してな」
引き摺り出すのに苦労したが、あゆちゃんは無事だった。
梓にうぐうぐ文句を言うがたいやき効果は覿面だったのだろう、それほど
怒ってはいない。しっかりと梓に抱きつきながら話しかけていた。

そんなあゆちゃんの背中を名雪ちゃんがポンポンと叩く。
「ね、ね、ね、あゆ、あゆ、あゆちゃん!」
「あゆあゆじゃな…名雪さん!?」
きゃー、わーい、と両手放しで喜ぶ二人だが、あゆの知らぬ危険が名雪にはある。
梓と共に緊張した面持ちで私は二人を見つめて-----いや、名雪ちゃんを「監視」
していた。

やがて梓の視線が、僅かに揺らぐ。驚きと、理解の光。
楽しげに話すあゆちゃんを、ぐっと抱きしめて名雪ちゃんから引き離す。
その意を汲んで、私は名雪ちゃんの手を引く。冷たい手を、ぐっと引く。

そして私は振り向いた。
そこに立っているであろう女性を迎えるために。

「こんばんわ、秋子さん」
「こんばんわ-----千鶴さん」
秋子さんが答える。
彼女の強さに陰りは感じなかったが、今は酷くやつれて見えた。
きっとあの時の、わたしもそうだったのだと思う。

(千鶴姉、このひと…)
梓が囁く。解っている。
梓を殴り合いで圧倒できる人間はそうそういない。
「秋子さん。名雪さんを-----お返しします」
とても儚い、小さな冷たい手を放して、名雪ちゃんを送り出した。

「ありがとう。感謝するわ」
秋子さんは慈しむように名雪ちゃんに手を回して、柔らかな笑みを浮かべる。
素敵な、本当に素敵な笑顔。
だけど。なぜ、この母子はこうなってしまったのだろう。
「でも、この娘は」
わたしは梓と共にあゆちゃんの前に移動し肩を並べる。
「渡せません」
梓が構える。
わたしと秋子さんは、そのまま。

戦いは。
いや、殺し合いは、もはや避けられないのだろうか?

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