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そして一つの決断〜弥生〜


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弥生は迷っていた。由綺の姿をこの目に入れたときは、ただ単純に
嬉しかった。もう二度と離れはしないと思った。
すぐに、由綺の心が壊れてしまっているということに気がついても、
その心に一片の変化もなかった。
普段の由綺からは考えられないような提案にも、弥生は黙って従った。
そして今、弥生は由綺と共に、マナを殺す為に歩みを進めている。
由綺と一緒にいられるという事は素直に嬉しかったが、しかしマナを殺すと言う、
人間として一番醜い姿を、例え心が壊れてしまったといえども、由綺には見せたくはなかった。
由綺が目の前で躊躇なく人を殺す姿を見た後でも、弥生はそう思っていた。
ただ、それ以上に、こんな状態の由綺を一人にしておく訳にはいかなかった。

「藤井さんがいてくれたら…」

ほんの少し前、そのマナを連れて逃走した冬弥の顔が頭に浮かぶ。
冬弥さえいてくれたら、弥生は由綺を冬弥に任せて一人でマナを追ったであろう。
あくまでも汚れるのは自分一人で充分だと決めていたから…。
しかしそれは、ないものねだりという物であった。

だがしかし、弥生の希望はすぐに実現することになる。

マナと冬弥が走っていった方に歩みを進める由綺と弥生。
今まで由綺達がいた所へ戻ろうとする冬弥。
この三人が再開するのは必然のことであった。

「あー冬弥君だ」

これから人を殺しに行く人間とは思えない程の明るい声で、由綺は冬弥の名を叫んだ。
弥生は冬弥の姿を確認すると、いつも見せるように軽く頭を下げ、黙って冬弥の元へ
歩み寄ると、おもむろにカバンの中から44マグナムを取り出して手渡した。

「これで由綺さんの事を守ってあげてください」
「……」
「私にはまだやらなければならない事がありますので、少しの間ここを離れます」

あえて、これからマナを殺しに行くと言うことは伏せた。

この何でもない一連の行動の中、弥生は頭の中で、さまざまな考えを廻らせていた。
本来ならば、この再開を心から喜び、弥生はすぐにでも由綺を冬弥に任せてしまい、
一人で由綺の希望を叶えに行きたい所であったが、それと同時に、果たして今の
冬弥が信用できるのかと言う不安が思い浮かんだ。
しかし弥生には、選択の余地はなかった。
最終的に三人でこの島を出る為には、弥生は由綺のマネージャーではなく、
もう一つの顔であるジョーカーとして、あと六人の罪のない人を殺さなければ
ならなかったのだ。

「九(今は六)人の罪のない人達を殺す事」
「その行動を由綺には絶対に見せてはならないという事」

主催者に、二人の安全と引き替えにジョーカーにならないかと誘われ、その誘いを
承諾した時、弥生はこの二つの決まりを自分に課した。
そして、この二つの条件を同時に満たす為には、自分が行動を起こしている間、
由綺を信頼出来る誰かに預けると言うことが絶対条件であった。
この島に来た人達の中で、安心して由綺を預けることの出来る人物を、弥生は
二人しか知らなかった。
その内の一人である緒方英二が既にこの世を去ってしまった今、弥生は自分が
行動を起こしている時に由綺を預けることの出来る人物を、冬弥以外には
思い浮かべる事は出来なかった。

いきなり拳銃を手渡されて呆然としている冬弥を尻目に、弥生は再び由綺のもとへ戻った。

「由綺さんは、藤井さんとさっきいた所で休んでいてください。後は私がやりますから」

冬弥に聞こえないくらいの小さな声で囁いた。

「うん。わかった。それじゃあ私、冬弥君と一緒に待っているから。気をつけてね」

弥生の小さな声とは対称的に、大きな声で由綺は返事した。
由綺の返事を聞いた弥生は、すぐに顔を背けた。
途中冬弥の目の前を通り過ぎる時にだけ、冬弥に向かってさっきしたのと同じような小さなお辞儀をしただけで、それ以降後ろを振り向くことはなかった。
振り向きたくても振り向くことは出来なかった。
その時既に弥生の顔は、芸能人森川由綺のマネージャーの顔から、主催者の用意したジョーカー―殺人者―としての顔に変化していた。


「汚れるのは私だけでいい…」

弥生は誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように呟いた。


【弥生、由綺別れる。 44マグナム・弥生から冬弥へ】

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