Sivis pacem parabellum


[Return Index]

 坂上蝉丸と三井寺月代は野営を行っていた。
 と言っても残り少ない食料と水を取っていただけに過ぎなかったのだが。
「(・∀・)もう、食べ物無くなっちゃたね」
「ああ、明日からは食料の調達も考えないとな」
 何気ない会話を交わしていると、蝉丸は突然黙り込んだ。
「(・∀・)せみまる?」
「しっ、静かに…」
 人差し指を唇に垂直に当てそう言うと、蝉丸は周りに神経を張りめぐらせ始めた。
 そして、すっと立ち上がってから
「そこにいる奴ゆっくりと出てこい。こちらは危害を加えるつもりは無い。
 ただし、おまえがそうではないと言うのなら、こちらもその限りではないがな」
 と言って刀に手をやった。

 間も無くしてゆっくりと物陰から一人の男が出てきた。
「すいません。あなた達がどんな人達なのかわからなかったので姿を隠していました。
無論、僕もあなた達に危害を加えるつもりはありません」
 そう言ってでてきたのは少年だった。
「何もなければ、このまま通り過ぎようと思ったんですが、
 まさか見つかってしまうとは思ってもいなかったですよ」
「気配の消し方はなかなかだったが、しょせんは素人だな」
「(・∀・)蝉丸は軍人さんなんだよ」
 と言う月代のほうを少年は一瞥してぴたりと止まってしまった。
「(・∀・)ああ、しまった! まだこんなのつけたままだよ!」
 月代はおろおろとうろたえていた。
「な、なんなんですか? それ?」
 少年はなんともいえない表情でそう尋ねた。
「なぜかは知らないが取れないんだよ、これ」
「不憫ですね…」
「(・∀・)ううっ…」
 月代はお面の上から手を当て泣くまねをしていじけていた。

「ところで、君は何処に行こうとしてたんだ? もう、だいぶ暗くなってきているぞ」
「…このくだらないゲームを企てた首謀者である高槻のところです」
 ほんの一瞬だが間をあけてから少年は答えた。
「そうか、なら目的は一緒だなってまさか、仲間になりに行くってわけではないんだろ?」
「ええ」
 少年はくすりと笑ってから、すぐに険しい表情になり
「これまでに、多くの人の死を見てきました。もう、茶番劇は十分です」
「だな…」
 蝉丸がそう答えるとしんっと静まり返った。

「(・∀・)じゃあ、一緒に行こうよ! 私たち、秘密基地見つけたんだよ!」
 その沈黙を破ったのはさっきまでいじけていた月代だった。
「秘密…基地?」
 怪訝そうに少年は答える。
「ああ、なんか地中から機械音がしていたんだ。怪しいと思わないか?」
「確かに…あの用心深い高槻が僕らと同じ島内にいるとは考えにくい。
 だからと言って、飛行機や船で逃げ出しているなら誰かが気付いてもおかしくない。
 その点、地下もしくは海中とかにいるのならば、極めて安全にいられるだろうね」
 少年は納得したようにうなずきながらそう答えていた。
「そうなんだ。だから、中に入ってみようと思っているんだが、この月代と二人では心細い。
 それで、誰か同じ目的を持った人を探し同行してもらおうと考えていたんだ。
 どうかな? 一緒に行ってくれないか?」
「(・∀・)いっしょにいこう!」

「そうですね…」
 少年は少し考えてから、
「わかりました。一緒に高槻のところへ行きましょう。
 でも、それでもまだ人数は少ないと思います。
 え〜っと、虻丸さんでしたっけ?」
「蝉丸だ!」
 ちょっと顔を引きつらせながらそう答える蝉丸の隣で月代が笑いをこらえていた。
「そうそう蝉丸さん。あなたが支給された武器ってなんですか?」
 苦笑いしながら少年がそう尋ねた。
「この『ぱそこん』と言うものと途中で拾った日本刀だ」
「そちらの女性の方は?」
「…ぉ…ん」
 ぼそぼそと月代が呟く
「え? なんですか?」
「だから、このお面だよ…」
「……………」
 少年は絶句し、その後に
「不憫ですね…」
 と、ポツリと呟いた。
 月代はまたお面に手を当ていじけていた。

「どうやら武器には当たり外れがあるらしいな」
「みたいですね」
「で、君の武器は?」
「これです」
 と言って、すっと一冊の本をとりだした。
「(・∀・)何それ? 辞書? 角で殴ったらいたそうだね?」
 さっきまでいじけていた月代が身を乗り出してくる。
「偽典です」
 少年が微笑を浮かべながらそう答えた。
「はずれ…か?」
「そうですね、他の人がもらっても、きっと喜ばないでしょうね」
「(・∀・)君は嬉しいの?」
「ええ、僕の友の形見とでも言うべきものですから…」
 その本を見つめ少年はゆっくり微笑んだ。
「そうか…」
 蝉丸が重く沈んだ声でそう答え、そしてまた、しんっと静まり返った。

「(・∀・)で、どうするの? 仲間を見つけに行くの? それとも3人で攻め込むの?」
 同じように、また月代がその重い沈黙を破壊した。
「そうでしたね。話が逸れてしまいましたね」
「そうだな…」
 蝉丸の声も元の調子を取り戻していた。
「で、その基地のことですが、あなた達は引き続き仲間を探してはもらえませんか?
 武器に関してもまだ不安な要素がありますし…」
「君はどうする気なんだ?」
 少年はちょっと困った表情をして、
「場所を教えてください。偵察に行こうと思います」
 蝉丸は何も言わずにそうか…とだけ呟いた。


 そして場所を簡潔に教えると、少年は今から行ってみると言った。
「性急すぎやしないか?もう、陽は落ちたぞ」
「忍び込むならやっぱり深夜でしょ?」
 確かに少年の言うことは一理あった。隠密行動は基本的に夜に行うものである。
「しかし、俺たちが仲間を見つけて戻ってくるまでにはかなり時間がかかるぞ」
「その分、中の状況をばっちり把握しておきますよ」
「(・∀・)無茶しないでね」
 そのやり取りを今まで黙ってみていた月代が多分(w悲しそうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ。あ、そうだ! これを渡しておきます」
 そう言って、かばんの中から一丁の銃を取り出し、蝉丸に渡す。
「ベレッタM92Fか…こんなものまで持っていたのか」
 その銃を蝉丸は見つめていた。
「それは、途中で出会った人が僕に渡してくれたものです。
 こうすれば、無茶しようが無いでしょ?それに、あなた達を守る武器になる」
 少年はくすりと笑って見せた。
「確かに、そうかも知れんが君のほうが危険なんだぞ?」
「いえ、危険なのはあなた達も一緒ですよ。
 もし、仲間にしようと話しかけた人が殺人鬼になってしまっていたら?
 ………蝉丸さん。絶対に月代さんを守れますか?」
「……………」

 蝉丸は何もいえなかった。絶対に守ると誓った月代だが今の装備では心もとないのは確かであった。
「それに、僕は少しでもヤバイと思ったら逃げればいいだけですから」
 少年はニコニコ微笑んでいた。
「しかし、腹の中の爆弾のこともある…」
「それも多分大丈夫です。主催者は僕たちに死んでほしいんじゃなくて、
 殺し合いをして欲しいんでしょうからね」
 そこまで言われて、蝉丸もようやく納得した。
「本当にくれぐれも無茶をするんじゃないぞ!」
「(・∀・)絶対だよ!」
 月代が念を押した。
「わかってますって」
 そう言って、少年は立ち上がった。

「あ、蝉丸さん」
「なんだ?」
「蝉丸さんならその銃に使われている弾丸の名前わかりますよね?」
「ああ、わかるけど。9mm×19mmの通称パラベラム弾だろ?」
「そのパラベラム弾の由来って知ってます?」
「ああ」

『 Sivis pacem parabellum 』

「そういうことですよ」
 二人で同時にその言葉を言った後、少年は歩いていき、姿を消した。
「(・∀・)蝉丸、今のどういう意味?」
 月代だけが蚊帳の外で多分(w不思議な顔をしていた。
「『平和を欲するなら戦いに備えよ』って言う意味だ」
 そう言って、少年のもう見えない姿をいつまでも見つめていた。 暗闇の中を一人、少年は歩いていた。
「手を汚すのも、傷つくのも僕一人でいい…」
 少年はそう呟き、偽典を握り締めていた。

【ベレッタM92F 少年から蝉丸へ】

[←Before Page] [Next Page→]