あの時から
人が死んでいるのを間近で見てすごくびっくりしたのに……心の奥は割と平静だった。
だって、昔嗅いだ血の匂いを、体が覚えているから。
たぶん私も――狂ってるんだと思う。
楓お姉ちゃんはどうなんだろう?
私と同じ?それとも違うの?
同じように前世を知る者として。
「誰が来るか分からないから気をつけなきゃね……」
七瀬お姉ちゃんが、私を後ろから軽く抱いてくれる。
ダメだよ、汚れた私なんかにそんなことしたら。
千鶴お姉ちゃんは何も言わなかった。昨日の事を。
お姉ちゃんは優しいから。だけど……
――本当は、私の方が偽善者なんだよね…
あの時の声。私の言葉。私の心の中の言葉。
昔の私は自分で手を汚さない非道な狩猟者だった。
大切な人の為と銘うって、大勢の同朋をこの手で死に導いたんだ。
そして、今の私の心の中にも、一匹の獣が住んでいる。
――ソシテマタ、ツライ、ヘイワナヒビヲ、ジローエモント、スゴスノ…
私はまた、人を殺すの?
このまま耕一お兄ちゃん達と一緒にいていいの?
もし大切な人が死んでしまったら…私は私でいられるの?
この島の、そして学校に立ちこめる血の匂いが…私の心の隙間を埋めていく気がして…とても怖い。
そして心が満たされた時、私は変わってしまうかもしれない。
すべてを狩る『狩猟者』に。
――千鶴お姉ちゃん、今の私から逃げて!
あれもまた私の本当の心だから。
誰にも言えないけど、昨日、あの時あの場所からずっと私は戦っている。
心の中のもう一人の自分――狩猟者と。
知らない人達を…そして大切な人達を、狩ってしまわないように。