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月夜の青年。


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雑音とともに、同僚の声が耳に入る。
「交代の時間だから、あと少ししたら行く」
彼は、やっと休める、と小さな溜息を吐いた。
にしても、誰もやってこない。見張りをする意味なんてあるのだろうか、とも思ってしまう。
そもそもカメラが設置されているのだ、見張りがいなくても、侵入者があってもすぐに判るはずだろう。
それについての説明は、未だ貰っていなかった。
だが、大体の予測は立てていた。侵入者があった時、入り口付近で叩かなければ、色々面倒な事になる。
もし内部に入られたとしても、体内爆弾を爆発させればいい、と思うかも知れない。
だが、それは実は、あまりに危険なのだ。
――爆弾の性質、それは、他者を巻き込む力がある、という事、
そして……
少し頭の働く参加者ならば、ここに外部との通信が可能な装置がある事くらい気付くかとも思ったが、
気付いたからと言ってマシンガンを持った相手に特攻を仕掛けようと言うのも愚かな事ではある。

気になるのは、
――自分たちの持たされた武器よりも、強力な武器が配布されている、という、そんな噂。

暗闇で、数寸先も見えない。参加者が反旗を翻そうと現れたとして、果たして自分はそれに対応できるか。
対して、この建物の明るさを見ればいい。
目立つほど、ではないが、それでも標的にするには充分な暗さだ――
赤外線ゴーグルでも渡されていれば話は別だったのだろうが、何故かそのようなものは配布されなかった。
「遅れた、大森」
という同僚の声が聞こえた。溜息を吐いて振り返った瞬間。

パァンッ!

それは、拳銃の発砲音に聞こえた。
次の瞬間、カァン、と、建物の壁に何かが当たる音。
間違いない、あれは拳銃の音だ。こちらを狙ってきている。
――敵襲だ!
大森はマシンガンを構え、音が聞こえた方向にぱらららら、と発射する。
手応えはない。この暗闇では、敵との距離がどの程度であるかも判らぬ。
襲ってくるなら夜だとは判っていたが。
この戦いが始まって以来、最初の反逆者が現れた――。
「三沢、俺がちょっと見てくるから、ここ頼む」
そう云って、彼は駆け出した。
「不用意な真似はするなよ、大森っ」

マシンガンの引き金を引きながら、敵との距離を詰めていく。
拳銃ごときでマシンガンに、しかもある程度訓練された兵士に敵うはずもない、
と思うかも知れないが、大森は、襲撃者だけでなく、暗闇とも戦わなければならない。
敵との距離がまるで判らないのだから。
しかも、あの茂みの中に敵はいる。大森といえども苦戦せねばなるまい。
まあ、防弾チョッキは全員に支給されている。多分大丈夫だ。
そう思いながら、三沢は入り口の前でマシンガンを構えていたが、少し不安になってくる。
溜息を吐きながら、自分も大森の援護に行くべきだろうか、と考えた。

にしても――不思議だ。銃声は一発のみ。
襲撃をかけるなら、腹を決めて一気に攻め上がってくるはずだ。
一発だけ撃って、そのまま逃げるというのか? その行動に何の意味がある?

何かが、横から駆けてきていた音に気付かなかったのは、敵がそちら側にいる筈がない、
という、そんな、思い込みからだった。

気付いた瞬間、三沢が真横からの来訪者に気付き、振り返った瞬間、
前頭部を、ガァン、と、何か重いもので打たれた。
交代した瞬間で、ヘルメットもかぶっていなかった自分にはその衝撃は大きすぎた。
一瞬にして意識を持っていかれる。だが、目を閉じるわけにはいかん――
二撃目が入った瞬間、その義務意識さえも持っていかれた。

「――なんだ?」
大森が座り込み、そこで見つけたものは、――参加者全員に支給された、バックだった。
持ち手の所には紐が括り付けられていた。長い長い紐。
鞄は異様に重い。訝しげに鞄をどけてみると、そこには破裂した紙パックがあった。

――そして、気付いた。
さっきのは銃声でもなんでもない、
膨らませた紙パックを爆発させた音!
紙パックを爆発させた音。それは、軽い音を出す拳銃に良く似た音。
子供の頃良くやった遊びだ。
飲み終わった紙パックの容器に、いっぱいに空気を詰め込み、それを思い切り踏みつける。
すると、不思議なほど大きな音がするのだ。
これは、足の代わりに、このやたら重い鞄を、木の上から落とす事で――
こんな、子供だましで――
三沢は無事か、と
振り返ると、そこには。

――月夜。そして、月影。

「悪いね」

マシンガンを片手に持った、若い、自分と同じくらいの青年が立っていた。
見上げるとそれは月夜。なんて、強い目をする青年なのだろう。

こちらが銃を構える暇もなく、彼は手に持ったマシンガンの引き金を引いた。
防弾チョッキの上からでも、その衝撃はあまりに大きい。
生まれて初めて感じる感触。
そして、意外とあっさりと意識は途切れた。
防弾チョッキを着ていたから死にはしないが、
その衝撃に耐えられるほど、ヒトの肉体とは強く作られていない。

重い切り札入りの鞄を手に取り、七瀬彰は大きく溜息を吐いた。
マシンガンを一丁片手に、もう一丁を鞄の中に放り込む。
そして、気絶した兵士から防弾チョッキを奪い、それを着込んだ。
彼のヘルメットもかぶり、なんとかまともな戦闘は出来そうな様子になる。
これで、多少は安心の筈だ。

予想以上に上手くいった。
遠隔操作で拳銃の「音」を作りだし、別の場所から攻め上がる。
拳銃の「音」と、投石による壁への「衝撃」を作り、相手を混乱させる。
武器のない自分にはこれが精一杯だった。
頭の中では判っていたが、成功して初めて自分がひどく汗を掻いている事に気付いた。

だが、あとは――戦うだけだ。

ヒトに、引き金をあっさりと引いた自分に、少し身震いしながら。

【七瀬彰 マシンガン2丁、防弾チョッキ、ヘルメット獲得、建物内に侵入】

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