詠美ちゃん様VS御堂


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(くそっ……忌々しい女だ!)
御堂は心の中で悪態をついた。
大場詠美と名乗る女に捕らえられた御堂は、後ろ手に縛られて座ったまま詠美を睨んだ。
「なによ、その顔は…ゆっとくけどわたしにさからったら
 『ムーンライトマジカルステージストライクレーザービームライフル』…だっけ?
 それが火を吹いちゃうんだから!」
「どこにも持ってねえじゃねえか、そんな武器……」
「げ、げんだいのかがくはすごいのよ!すんごくちいさいの!!」
いずれにせよ、ここで殺される気はない。
ターゲットを主催サイドに絞った御堂だったが、命が危ない状況ならば話は別だ。
場合によってはここでこの女を殺さなくてはならない。
だが、その女の武器は未知の兵器――御堂の背中から冷や汗が流れて、落ちた。

「あー、とにかく、わたしにさからわなければ悪いようにはしないわよ」
勝ち誇ったように御堂の周りをぐるりと歩く。
(くそっ!生き恥だぜ、この俺ともあろうものが……)
いっそ殺されてしまったほうがマシだとさえ思える。
御堂の手を拘束しているベルトは御堂のつけていたもの。
緩々になった麻のズボンはすでにずり落ち、その下から黄色がかったふんどしが露出していた。
「くそっ…」
「何よ…文句あるなら『ムーンライトニングスラッシュレーザービームサーベル』で
 消し炭にちゃうんだから!」
さっきと名前が違うような気がしないでもないが、御堂は外来語が苦手であったし、
もともとその武器の正確な名前すら知らない。
(…時代は変わる……か。未知の近代強力兵器…これほど恐ろしいものはねぇぜ。
 それにこの女の自信…強化兵でない俺には少々ヤバイ相手かもしれねぇ…)
御堂の強化兵として、いや、軍人としての勘がそう告げていた。
こう見えても御堂の勘はちょっとしたものだ。
肉体の強さだけでない。そうして御堂は生き残ってきたのだ。
とりあえずは御堂は女の指示に従うことにした。
「俺を…どうする気だ?」

「もちろん協力してもらうのよ。ここを…でるために」
詠美の表情がいきなり真剣なものに変わる。
「ほお…具体的には?」
「う〜ん、さしあたっては協力者がひつよーね。
 とりあえず柏木って女の人をさがそうとおもうの」
「かしわぎだぁ?」
――御堂は既に柏木家の次女、梓と交戦していた。だが、御堂はその女の名前までは知らない――
「で…どうしようてんだ?」
「……さあ……」
「なめてんのか、このガキ」
御堂から見れば詠美もあゆもただのガキだ。
「ガキって呼ばないでしたぼく!」
(したぼくってなんだ…?)
最近の流行りなのだろうか。どちらにしてもあまりいい気はしない。
「…まあいい。で、俺はどうすればいい」
「そうね…とりあえずしたぼくが三人増えたことだし…前途揚々ね」
「三人ってなんだ……」
「あんたとー…」
御堂を指差す。
「ぴこっ!」
「にゃう!」
二匹が順序良く返事した。
(お、俺がこいつらと同格か?死にたくなってきたぜ…)
「いっしょについてきてもらうわよ!……あとで…全部話すから」
詠美の表情が、今度は悲しみに彩られた。
何かを失ってしまったような、そんな深い悲しみ――
「………ちっ、わかったから手のベルトを解いてくれ…」

ようやく身軽になった御堂は、詠美の前をボディーガードさながらに歩く。
とりあえず柏木という女を捜せ…といってもアテがあるわけはなく、
ただ安全な場所へと移動しているだけなのだが。
いつ敵に出くわすとも限らない。
比較的安全な木陰へと移動する。
「とりあえずよ…武器返せ…別に危害は加えねぇからよ…」
この島での丸腰は危険だ。すでに詠美から殺気を感じられないと判断した御堂は
自分なりに穏やかにそう言った。
「あんた…怖いからイヤ」
「おめぇには『むーんらいだーなんちゃら』って武器があんだろ?」
「そ、そうよ。『ムーンライダーワンダフルグレイトレーザー』があれば無敵だもん!
 か、返せばいいんでしょ…ゆっ、ゆっとくけど、逆らったら『ムーンライダーなんちゃら』が…」
「つーかよ、分かりやすく省略してくれ、その武器名」
「う、うん、ぽ…『ポチ』…かな?」
「ぽちだぁ?」
「な、なによ、わかりやすいでしょ!あたまわるいあんたのためにつけてやったんだから
 かんしゃしてよね!」
(このガキ……)
「ぴっこり」
「にゃうにゃう♪」
まあいい、と御堂は思えた。
(忌々しいが、このガキのもつ『ポチ』とこの銃があれば対等に戦えるかもしれねぇな。
 まあ、その前に胸の爆弾を何とかしなきゃならねぇが……
 少なくともこのガキ…『しすぷり』って娯楽劇の話しかしなかった
 戦闘力皆無のあのガキよりはマシだろう…)

御堂と詠美の二人は、とりあえず脱出へ向けて一歩近づいた……かもしれない。



「ねえ、あんたってさ…そのバインダー…」
詠美が御堂のバックに入っているバインダーを指差す。
「このバインダーがどうかしたか?」
「桜井あさひ…好きなの?」
桜井あさひ――知らない名前だ。このバインダーや、中のカードに描かれている女のことだろうか。
「…とりあえず役に立ちそうだったからな」
結構丈夫な厚紙だ。しかも分厚いときている。
銃弾に対しては心許ないが、刃物の類相手なら充分な盾になるだろう。
「ふーん…『あさひちゃんマニア』なんだね……」
「?……まあ、戦う時が来たら服の下にでも括り付けておくのが効果的だな」
そうしておけば胸を狙われても致命傷になる確率はグンとさがるハズだ。
「そ、そうなんだ(汗………お、おまもりみたいなもの?」
「…そうとも言えねぇこたあねえがな……」
身を守る――という意味ではお守りともいえないこともない。
まあ、御堂は神頼みなどする気も起こらないが。
「本当はずっと括り付けておきてぇが動きにくくてな…」
「そ、そおなんだ…あはは……が、がんばってね…おーえんしてるからさ(汗」
「???」

 御堂 【デザートイーグル再入手 捕虜モード解除】

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