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カウント・ダウン


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ほんの数分前のことだった――。


「あ、智子さん聞いてください。
 わたし、センサーの故障が治ったんですよ〜」
「そらよかったな。で、どういうことやねん?」
「はい! つまりですね、普通の人間の方と比べて4〜10倍の範囲の音声を
 拾い聞くことが出来ます!」
「なんや、センサーって耳のことかいな……。
 でもそれええな、ちょっと今来る連中の会話聞いたれ。
 もし内容から判断してまずい思ったら即逃げるで!」
「分かりました!」


「……ったくもう。この子、余計なところが人間くさいんですわ」
「はー。これがロボット言うんやからなぁ……。
 世の中進歩したもんやな」
「ほんまですわ。
 しかもこの子、人間以上にドンくさくてかないませんわ、
 ロボットだと思って接すると、逆にこっちが痛い目見ますよってに」
「あうぅぅ、わたしなんだか凄くダメなメイドロボじゃないかって思えてきました……」「何やの? まさか、いまさら気が付いたなんていうわけや無いやろな?」
「あうぅぅぅ……」
威勢のいい関西弁の会話に挟まれて、マルチはおろおろしていた。
なにやらその二人――晴子と智子――がいつも異常に活発に見えるのは気のせいだろうか?

「なんかお母さん楽しそう……」
「ホントですね……」
なんとなく会話に入っていけなかった観鈴とあさひは、
その様子を見て一致した見解を述べた。

「――でも、敵意ある人間でなくてよかったわ。
 ほんまに」
「……そうですね」
微妙に会話のトーンが下がる。
しかしそれは恐れやカナシミから来るものではなくて――。
「悪かったな、痛い話聞かせてもーて」
晴子はマルチに謝罪した。
「そ、そんなことありません!
 なんていうか……。よく、わからないんですけど、
 モーターがほんのりあつくなってそれで……、
 そ、その、あの、とにかく私は全然痛く無かったです!」
そんなマルチの様子を見て、晴子はふっ、と笑い一言、
「ありがとうな」
といってマルチの頭を撫でてやった。
「あ、はうぅぅぅぅ……」
頭を撫でられること。
――久しく味わっていないその感触に、マルチは幸せそうにうつむいた。

「ほな、自己紹介させてもらいますわ。
 うちは保科智子言います。
 一応、高校生です」

「え、高校生の方なんですか?
 ……ず、ずいぶんと大人びているから、
 わ、わたしてっきりどこかのオフィスレディーかと……」
驚き混じりのあさひのセリフに、智子は
よく言われます、
と軽く笑ってかえした。

「っと、私のことは智子でええです。
 そいでこっちが――」
智子がマルチを見ると、マルチもさっきのを見習ってすぐに自己紹介を始めた。
「私、HMX-12型、マルチと申します。
 こんな格好はしていますが、これでもれっきとしたメイドロボなんですよ」
マルチはにっこりと笑ってそう言った。
「え、HMシリーズって……、もしかしてあの”クルスガワ”のメイドロボなんですか?」
心当たりがあったのか、横で話を聞いていたあさひが口を挟んだ。
「ハイ。一応セリオさん――HMX-13型の方です――と並んで、HMシリーズでは
 最新鋭のメイドロボなんですよ……」
いつもなら、えっへん、と胸を張っていそうなものだが、
今のマルチのセリフは全然そんな調子ではなく……、
むしろ憂いさえ帯びていた。
そして、その理由など、智子を除いた面々に分かるはずも無かった。
「す……すごいんですね」
あさひはそのことに気付かなかったのか、素の感想を言った。
なにやら感心しているようだ。
と、すぐに自分が話を脱線させたことに気付き、あさひはばつが悪そうに晴子の方を見た。
「もうええの? ホンならうちの番やね。
 うちの名前は神尾晴子。晴子でええわ。
 んでこっちのがうちの娘で……」
晴子は観鈴に目をやった。
「み、観鈴です。よろしくお願いします」
観鈴は慌てて挨拶をする。
「うん、よろしゅう。……で、そっちの方は?」
「あ、えと、桜井あさひと言います」
「桜井さんやな、分かったわ」
智子はやけにあっさりと納得してしまった。
「あ……ま、待ってください。そ、その……」
「ん、何やの?」
「え、えと、その、あの……」
「……何やの、はっきりせん子やな」
心持ち、むすっとした口調で智子は言った。
――実は智子より年上だなんてことは秘密だ。
「あ、あさひでいいです」
「へ?」
「あさひって呼んで下さい!」
ついついどもりながら喋ってしまう自分への苛立ちからか、大声を出してしまった。

「……分かったわ。ほな、あさひって呼ばせてもらうで」
パッとあさひの顔が明るくなったのを智子は見逃していなかった。
「あさひさんって凄いんですよ。何でも大人気声優なんだって」
にははっと笑いながら観鈴が言った。
「そ、そんな、大人気だなんて。えと、その……」
「……声優?」
智子の目が光る。
「なんや、あんた声優なんてやってはったの?」
「ハ、ハイ」
「またエラいマニアックな職業についたもんやな……」
ズキッ!
あさひは何か鋭い矢のようなもので胸を貫かれた気がした。
「けど、その割には話し言葉どもりまくりやん……。素人くさいわ、ほんま」
「うぐっ!」
さらに追い討ちでとどめを食らってしまった。
「わ、私……、ま、マイクを持つと凄いんです……」
「そうか? 信じられへんわ……」
ジト目で智子はあさひを見つめる。
「う、ううっ」
ちょっとあさひは涙目になった。
――元からだったかもしれないが。

プッ。
智子は吹き出した。
「ふふっ。冗談や、冗談」
あさひはぽかんとしている。
「人は見かけのよらんものやからな。きっとホントに凄い声優なんやろ」
「そ、そんな。私なんて、その」
あさひは照れながらそう言った。
「いつかあんたの仕事も見せてもらいたいもんやわ」

あさひはそれを聞いて
「カードマスターピーチっていうアニメ、ご存知ですか?」
と聞こうとした。
だが、そのセリフが言い出されることは無かった。


変化は、そのほんの一瞬前に訪れていた。


かちり、という音が、したような気がした。


ドギュウゥゥゥン!


響く。
銃声が、そして叫び声が。
所詮はうたかたの平穏だった。
死は、どこまでも近いところに潜んでいたのだ。

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