とりあえず、出ませんか?
「……その人の名前、何て言うんですか?」
短刀を持って殺気立っているなつみに、茜は訊ねた。
「宮田健太郎……」
「……宮田……?」
記憶を掘り起こす。
最初の死亡放送で、確かそのような名前があった気がした。
その放送で、男と思われる名前はその一つ。
そして茜は、放送以前に、一人の男を殺害していた。
(……まさか、本当に私が……?)
僅かに動揺する。
普段から感情を表に出すこともなく、今度もバレないだろうと踏んでいたが、
「やっぱり、あなたなのね……店長さんを殺したのは……」
簡単に見破られていた。
「……そうみたいです」
シラを切り通すこともできたが、そんなことをしても意味はなさそうだった。
「ようやく見つけたよ、ココロ。
一緒に、店長さんの仇を討とうね?」
短刀を撫で、茜に襲い掛かった。
その腕は、震えていた。
慌てず騒がず、茜は手榴弾の安全ピンを抜いた。
「……離れて下さい」
それだけ言い、壁に向かって投げ付ける。
同時に、廊下の反対方向へ走った。
できるだけ、出来る限り、速く。
そして、その場に伏せた。
ドォォォォン!
次の瞬間、爆発。衝撃が茜となつみを襲った。
「……ふぅ」
起き上がり、手榴弾を投げ付けた壁を見る。
壁は見事に破壊され、外へと大きな大穴を開けていた。
「……あの人は無事ですか?」
すぐに、廊下の向こうに見つかった。
短刀を取り落としている。
それを拾おうと、茜は走った。
なつみも遅れて手をのばす。
なつみが一瞬早く短刀を拾い上げ、
その手を、茜は蹴り飛ばした。
カランという音を立てて短刀が転がり、今度は茜が拾いなおす。
短刀の先をなつみに向けて……なつみは床に座り込み、泣いていた。
「終わっちゃったね、ココロ。
私の居場所を奪った人を。店長さんの仇をとろうとしたのに。
終わっちゃったね……」
茜の方を見ようともしなかった。
ただ俯き、呟く。
雫が頬を伝って床に落ちた。
茜は無言でそれを見つめ、短刀をしまった。
壁に空いた大穴を指し、一言。
「とりあえず、出ませんか?」