今度会うときは……
「どうして殺さないの?」
校庭に出たなつみは、まず最初に訊いた。
曰くこの女、血も涙もない殺人鬼だそうではないか。
それに、健太郎を殺してもいるのだ。
何故自分が殺されないのか、わからなかった。
「……武器は奪いました。あなたはもう戦えません。
……だから、殺さなくてもいいんです」
なつみの先を歩き、言う。
視線は前を向いており、なつみの方を見ていない。
それは余裕か、信頼か。
「……それに、疲れました。
……たい焼き、食べ損ねましたから」
笑う。
その笑顔は、なつみには見えない。
「甘いわね」
「……はい。今日、何度も思いました。
……だけど……」
脳裏に、祐一の顔が、詩子の顔が浮かぶ。
「……これが、私です。
……さっきの人も一度殺せなくて、それでまた襲われましたけど。
……多分、これでいいんです」
「でも、結局あなたが殺したんでしょ?」
「……だから」
始めて、茜は振り向いた。
「……今度会うとき、それでもまだ私を狙うなら。
……震えもせず、本気で私を狙うなら、容赦はしません」
瞳に冷たい色が宿る。
なつみはそれを見た上で、言った。
「今度会うときは……殺すから」
二人は別々の方向に走り出す。
何を言われようとも、なつみは茜を許すつもりはなかった。
この手で殺したいと思い、今度会うときは、遅れをとらないよう――
私の居場所を奪った人。
なつみは茜をそう言った。
茜の脳裏に、一人の女の子の顔が浮かぶ。
(……私の居場所を奪った人。
……もう、いない)
茜の居場所は他にもあった。
しかし、一番居心地のいいあの瞬間は、もうなかった。
それでも、諦めきれない。
誰もあの人のことを覚えていないから。
言っても信じて貰えないから。
だから、待ち続ける。
誰か、この苦しみから開放してくれないだろうか。
ふと、祐一の顔が浮かび、慌ててその影を消す。
開放されることは、あの人への裏切りだ。
それでも――
今度会うときは、祐一は自分に、何を与えるのだろう――