拒みたい真実


[Return Index]

林の中のけもの道を、男女が歩いている。
「ねぇ、一体どこに向かって歩いてるの?」
詠美が半ば、怒りぎみた声で訊いた。
彼女は先程から御堂が自分の前を偉そうに歩いているのが気に食わないらしい。
彼女は知らない。先程から御堂はトラップや地雷、人の足跡などが無いかを確認しながら歩いている。
「…知るか、とりあえず柏木とかいう女を探すんだろ?死にたくなけりゃ黙って俺について来い」
御堂はぶっきらぼうに答えた。
「むかむかむかぁーーーっ!!なによその態度っ!!したぼくのくせにちょおなまいきっ!!」
「…ったく、うるせぇな。だいたい何なんだよ、その『したぼく』ってのは?何て字で書くんだ?」
御堂は、したぼくの意味は知らないが、どんな字で書かれているかが分かれば意味も何となく分かると考えた。
「え?あんた漢字も知らないの?バカじゃないの?」
「うるせぇ!大きなお世話だっ!」
余談ではあるが御堂は学生時代、喧嘩は強かったが勉強はからっきしであった。
「えっとねぇ、上下の『下』に、僕私の『僕』よ。分かった?」
「…下僕じゃねぇかよ!!このアマふざけやがって!!」
御堂は詠美に怒鳴り散らす、そのまま胸ぐらをつかみそうな勢いだ。
「おっと、忘れたの?あたしには『ぽち』がいるのよ?」
右手をポケットに入れて、何かがあるような素振りをして詠美が言う。
「…いい加減、『ぽち』ってやつをを見せろよ」
「い や よ!!」

しばらくそんなやりとりを交わしているうちに、狭い林道に出た。
林道にはいくつかの足跡…しかも同じ靴跡である。
(1、2、3…4人か…同じ靴の跡、管理側の人間か)
御堂は足跡をたどることにした。そんなことはつゆ知らず詠美の話は続く。
「その子達、あんたにすっごくなついてるわよねぇ」
詠美は御堂の頭上で丸くなって眠りについている2匹の小動物を指差して言った。
「…知るか、勝手について来てるんだよ」
御堂はやや恥ずかしそに言った。
「あんたってひょっとして、ムツゴロウさん?」
「ムツゴロウ?干潟にいるアレか?」
「違うわよ!『いや〜、可愛いですね〜』って言いながら犬とかにキスする人よっ!」
「…莫迦か、そいつは?」
「ひっどーーーい!!ムツゴロウさんはいい人なのよっ!!」
「シッ!静かにしろ…ありゃ、何だ?」
「え?何かあったの?」
詠美は御堂が指を指す方向に視線を移した。
見るとそこにはコンクリートでできた建物があった。
1階建てで大きさから見て内部の広さはざっと学校の教室くらいであろうか。
「何だろ?…何かの施設じゃないの?」
「施設?…どんな施設だ?」
「知らないわよ。無線とか…じゃないの?」
詠美はこの島のどこかに無線施設があるという和樹と楓の会話を思い出した…
「無線か…よし、あそこを制圧する。お前はここで待っていろ。あと、こいつらを頼む」
「にゃにゃ?」
「ぴこ?」
そう言うと、御堂は頭の上の小動物をひょいっと摘み上げ、詠美に預けた。
「せいあつって…ちょっ――――」
詠美が御堂に視線を戻した時には、御堂は既に施設へ向かって疾りだしていた。

金属製のドア…御堂はそこに耳をあてる。
仙命樹の力が弱まっているといっても、部屋の内部に居る人間の会話ならはっきりと聞き取れる。
男の声…数は足跡と同じ、4人。
『ったく、まだ終わらねぇのかよ、ゴキブリ並みにしぶてぇな』
『ホントだぜ、さっさと死ねよ、あいつら』
『だけどよぉ、何か嫌じゃねぇ?人が死ぬって』
『いいじゃねぇか、金さえ貰えりゃあ。だいいち、他人だぜ?』
『そりゃそーだ!』
『ギャハハハハハハハハ!!』
御堂は体全身がカッと熱くなるのを感じた。奥歯を噛み締めギリッと音がする。
(こいつらに、生きる資格は…ねぇな)
『あ、俺小便行ってくらあ』
『気をつけろよ』
『へーきへーき!いざとなったらコレがあるしな』
足音が聞こえる…こちらに向かっているようだ。どうやら一人の兵士が外へ出るようだ。
御堂はすかさずドアが開いた時、死角になる場所へ隠れた。
ギィ…
わずかなきしみを帯び、金属のドアが開いた。
出て来たのは、中肉中背の男…戦闘服を身にまとい、肩にはサブマシンガンを下げている。
ガチャン!
ドアが閉まる。
すかさず御堂は男の背後に回り、兵士の首に左腕をまわし、ぐいっと引き入れる
空いた右腕は、男の後頭部へあてがい、そのまま前方へ一気に力をこめる。
「!!」
男は首を折られ、何も言わぬ肉塊となり、地に伏した。

「この人…死んでる…?」
声の主は詠美だった。胸元に2匹の獣を抱えている。
「…待っていろと言っただろ?」
「だ、だって……」
詠美は黙り込んでしまった。御堂は悟った。一人では不安だったのだろう。
「分かった。5秒で片付ける」
彼にとっては3人の兵を殺すことなど5秒もあれば事足りる任務であった。
あえて銃は使わない。狭い室内での拳銃の使用は耳に響くからだ。
男の腰に差してあった戦闘用ナイフを奪取すると、御堂はドアノブに手をかけた。
ドアのすぐ前に一人…
左手を男の左頬に当て、一気に右側へ押し込み、首を折る。男の顔は右へ向き、そのまま崩れる。
「なっ!?」
3時の方向約5メートルに2人目…
御堂は地を蹴り、2人目の男の首をすれ違い様に先程奪った右手のナイフで斬りつける。
「ぐぁっ!」
ナイフは男の頚動脈を捕らえ、盛大に地飛沫を上げ、石床を紅く彩った。
「くそっ!!」
最後の一人…1番奥のイスに座っている。距離は約10メートル
男は拳銃に手をかけ、迫り来る御堂へ――――
「遅いっ!」
御堂は右手のナイフを投げ放つ。ナイフは空を薙ぎ、男の眉間に深深と突き刺さる。
男の手からするりとニューナンブがこぼれ落ちると同時に、
ガチャン!
御堂が開けたドアが閉まる。
彼の予告通り5秒で制圧されてしまった。

「終わったぞ、入って来い」
御堂はドアに向かって言い放つ。しばらくすると詠美が顔を出す。
「え?…ウソ?」
(あの女、死体を見て驚いてやがる…まぁ、俺の予想通りの反応だな)
「あんた…弱いキャラじゃなかったの?」
「…は?」
御堂の予想とは少し違ったようだ。
「何言ってやがる。俺は元々強ええんだよ」
「ウソウソ!だって3人もいるのよ!?それでナイフ一本で勝てるなんて映画の世界じゃない!」
「しょうがねぇだろ!いちいち文句言うな!」
「みとめない!みとめない!したぼくがこんなに強かっただなんてぜーーーーったいみとめないんだからぁ!」
「あぁ、分かったよ、それじゃあ俺は弱いってことにしといてくれ」
「…やけに素直になったじゃない、さてはあんたしたぼくとしてのじかくが――――」
「お前を相手にしていても、無駄な時間を過ごすだけだ」
御堂はそう言い放つと、施設の内部を調べまわった。
無線施設ではなかった。どうやらここは兵の詰め所らしい。
簡単な水道と照明、寝具、食料、いくつかの武器弾薬。それとバイクがあった。
御堂は保存が利きそうな食料と水、弾薬を布袋に詰め込むと、バイクを調べた。
(二輪車か、これは使えそうだな)
「おい!そろそろ行くぞ!乗れ!」
バイクのエンジンを蒸かしながら御堂が言った。
「待ってよ!イロイロしらべてるんだからぁ!」
詠美は兵士の持ち物を漁っていた。
「ゾンビをやっつけるゲームであるじゃない死体調べるやつ」
「いいから乗れ」
「それに、2人乗りはおまわりさんにつかまるのよ?」
「いいから乗れ!!」
「わ、分かったわわよ!乗ればいいんでしょ!乗れば!!」
詠美は迷彩色のぶかぶかなヘルメットを被り、バイクに乗った。
「しっかりつかまってろ、振り落とされるなよ!」
「え?ちょっ――――――――」
詠美の抗議はエンジン音によってかき消された。

【兵の詰め所の1つを制圧】
【御堂 兵士の死体からナイフ奪取】
【詠美 兵士の死体から『兵士のメモ』を奪取】

[←Before Page] [Next Page→]