新たなる生きがい
(さて……どうすべきか…)
弥生は機関銃を片手に、民家の中へと入る。
森、山を抜けた所にある小さな集落。
その中では恐らく一番の大きな家。
誰もいない。人の気配も足跡もない。
「ふう…」と息を吐いて、弥生は横のガレージへと入り込んだ。
中には古ぼけた車(暗くて色までは判別不能だ)が止まっていた。
何故か鍵が開いていたドアを開き、そして腰を下ろす。
カチッ……
普段は吸わない煙草――バージニア・スリム――の箱を開封し、そっと火をつける。
小さな明かりがガレージの闇の中にぽっと浮かんだ。
脱出の為に弥生が考えていることは二つ。
脱出への道を模索し、黒幕をぶち倒すか、
ゲームの主旨に乗っ取って、全員殺してここをでるか。
生きて帰れるならば前者、後者のどちらを選んでもよかった。
……もう、弥生に守るべきに値するような知り合いは理奈しかいない。
だが、その理奈も弥生にとっては他人同然の付き合いでしかないのだ。
(その理奈もすでに死んでいるのだが、そこまではまだ弥生は知らなかった)
ここで考えるべきは効率――果たしてどちらを選ぶのが賢いか。
「ごほっ…」
慣れない紫煙に巻かれ、少し咳き込む。
「ダメですね…やはり…」
弥生は闇の中苦笑する。
「現実的に考えれば…どうすればいいか決まっています……」
紫煙と、かすかに浮かんだ涙が傷ついた目に染みた。
脱出へのリスクを考えれば、おのずと答えは見える。
守るべき者がいない以上、ゲームに乗ったほうが現実的だ。
胃爆弾、閉鎖された孤島、戦力の見えない敵――
さらには、信用、信頼できるような生き残り――協力者がいない。
下手に信頼して寝首をかかれてはそれこそ笑い話だ。
これだけの材料が揃っている今、この場で反抗する気にはなれなかった。
「生きて帰ると決めた以上、犬死はできません」
既に人を殺めている弥生は、最後の良心の抵抗を押さえきり、言った。
生きて帰り、することがある。
恐らくは由綺の代わりに誰かをスターへと押し上げることはもうできないだろう
そしてする気にもならないだろう。
由綺の代わりなど誰にもできないのだから。
帰ってからやるべきことは、復讐――
自分のつくりあげてきたコネや、地位を利用して、黒幕を糾弾、あるいは殺す――。
必ず、どんな手段を用いても奴等を追いつめる――
「ある意味感謝しなければならないのかもしれませんね。
私に――新たなる生きがいをくれたのですから」
それに由綺、冬弥が死んでも、もしかしたらあの約束は有効かもしれない。
十人…いや、あと六人殺すだけで自分は生きて帰れるかもしれない。
――二人が死んだ今となっては、まったく信用できない話だとは思えるが――
「できれば理奈さんは保護したい所ですね……」
そう言いながら、もう一度だけ大きく煙草を吸って――吐いた。
もう咳き込みはしなかったが、また少しだけ傷に涙が染みた。