護。


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その高槻は、作り物。
けれど、作り物が意志というものを持たせるという事、
それがすごく哀しい事だというのを、無責任な作り手は知らないのだ。
それはそうだ。作り手にとって、それはモノなのだから。

仕事がない。――特に変わった事もない。定時に長瀬一族に連絡を入れる以外は仕事もない。
爆弾を一度爆発させたが、それきりだ。
長瀬一族には頭が上がらない。だが、この機にFARGOの力を駆使し、奴らをどうにかしてやろう、
とも、高槻は考えていた。
にしても、管理者役としてここに配置されたは良いが、どうも自分のクローンが幾つか作られているようである。
少なくとも定時放送を入れる奴一体は確認した。他にも作られている可能性はあるだろう。
当然オリジナルである自分が、このような重要な役をやるのは当然だと思う。
爆弾を爆発させる装置にしろ、定時連絡を入れる役にしろ、それは出来の悪いクローンには無理だろう。
「くっくっ、オレのクローンなんか作るたあ、長瀬の老人連中もなかなか面白い事をやるねえ」
卑屈な笑みを見せて、高槻は高笑いした。

自分が一番出来が悪かったクローンだとは、彼には知る由もない。
出来が悪かろうとも、「そんな簡単な仕事」、出来るから。
だから、こんな危険な場所で管理役をやらされているのだという事も。

高槻が煙草を吸い終えて、淹れたコーヒーに手を付けようとしたその時、その警報は鳴った。
「侵入者が現れました!」
兵士がそう呼ぶ声を聞いて、高槻は眉を顰めた。
「ああん? 誰だ? その馬鹿野郎は」
「判りません、警備の兵士からヘルメットを強奪し、頭部を覆っておるため……」
「使えない奴め」
高槻は、自らの横に置かれた大型機関銃を撫でながら、
「まあ、構わん。体内爆弾を爆発させりゃ済む――」
言いながら、高槻は気付いた。爆弾の性質――
「そうか、まずいな。早めに叩け。――兵士十人いれば、武器持ってようが、餓鬼一人くらい殺せんだろ」

ぱらららら、と、サブマシンガンの歌声が、建物内部に激しくこだました。
それは、自分が手に持った黒い楽器から紡がれるメロディ。

彰は覚悟した。
殺さなければ、自分のすべき事が為されないのなら、
――殺す。
息を切らし、走りながらの、冷静さを欠いた思考回路の中で、それは彰の中で、
「決定事項」となった。

ホールの横を走り抜け、十字路に至るところでようやく最初の兵士に出会う。
こちらに気付くと、相手は慌てて腰から拳銃を取り出そうとする。だが、そうはさせない。
タタタタッ!
鞄を横に放り、重荷を一旦置いた彰は、目の前で拳銃を出そうとはしているが、
明らかに動揺している兵士に、思い切り跳び蹴りを食らわせた。
彼は拳銃を撃つ事も叶わず弾き飛ばされた。そしてただ突っ伏す。
まさか侵入者があるとも思っていなかったのだろう、サブマシンガンも持たず、ヘルメットすらかぶっておらず。
俯せの兵士をひっくり返す。そして、思い切り喉を踏みつけ、押さえつけた。

ぐえ、と苦しそうな声を上げた、その顔は、自分と同じくらいの年頃の、若い青年だった。
右手に握られた拳銃を奪い取り、彰はそれを腰に挿した。

銃口を向け、彰は一瞬祈った後、

――引いた。

ぱららららら。
叫び声は、喉が潰されているため殆ど出なかった。皮膚が弾け、眼球が飛び出し、鼻が潰れ。
腐ったトマトのように、それはみるみる潰れていく。あまりに凄惨で、醜い。
けれど、彰は目を逸らさなかった。何かを殺すと言う事は、自分にも殺される因果があると云う事だから。
この人にも家族や生活はあったのだろう。
「護るべきモノ」があったのだろう。

――けどな、僕にだって「それ」はあったんだよ。

「こんな事に関わるからいけないんだ」

派手なサブマシンガンの音に驚いたのか、右側の部屋から一人、兵士が現れた。
「どうしたっ!」
次の瞬間、彰の喉から出た言葉は。
「て、敵襲です! 三沢がやられて、こいつも」
その名前は、先程聞いた、見張りの兵士の名前だった。
「何だとっ!」
――外にいた兵士の服を奪い纏った自分の声に、彼はあっさり騙された。
サブマシンガンを肩にぶら下げながら、その兵士は無防備にこちらに近付いてくる。
彼も、ヘルメットをかぶってはいなかった。
油断しすぎだよ、まったく。
屈み込んで、死体の様子を気持ちの悪そうな顔でそれを見る。
そして振り返り、
「て、敵はどっちへ」
――言い終わる前に、彰はその首筋に向けて、弾丸を放っていた。

今度は、流石に悲鳴が出た。

皮膚が飛び、肉が飛び、そして、ほとんど千切れそうになるまで、それを撃ち続けた。
ぷしゅう、という、血の音色。薄暗い廊下でも、なんて赤い。
頬を濡らすその暖かなもので、自分の気が狂ってしまわないように、彰は願った。
そして、鞄を手に取ると再び駆け出した。

「ふ、二人やられたそうです!」
コーヒーを啜っていた高槻は、その報告を聞くや否や顔を青くして、
「馬鹿な! 貴様らは訓練された兵士だろうが!」
と怒鳴り散らした。兵士長も必死な顔をして弁明する。
「ま、まだ侵入者に関する連絡が回っておらず」
「言い訳は良い! 早く侵入者を殺せ! 八人いれば」
「み、見張りが二人やられていますから、実質六人です――」
「ろ、六人でも殺せるだろう! 早く行け!」
「は……はっ! 了解しました!」
高槻は次第に恐ろしくなっていた。
どうして、オレのところには護衛が十人しかいないんだ。
――その答えに辿り着くのは、果たして何時になるのだろう?

【七瀬彰 拳銃入手 切り札未使用】

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