Dream is Over
――桜井あさひと言う女の子の話。
アニメや漫画が小さい頃から大好きで、
そういうものにずっと憧れていた。
ずっと前に見たアニメの話。
主人公は平凡な女の子。
毎日の生活を、代わり映えは無いけど、
大好きなお父さんとお母さん、それからちょっと生意気な弟、
親友の女の子とクラスメート、あとペットの子猫……、
そんな人たちとともに、穏やかに平和に過ごしていた。
そんなある日、女の子のもとに一人の魔法の使いが現れて。
「実はあなたは魔法の国のお姫様の生まれ変わりなのです。
さあ、この魔法のステッキを持って、本当のあなたに目覚めるのです」
そうして魔法の呪文を唱えると、
あっという間に不思議な魔法少女に早変わり。
見えない翼で空を飛んで、不思議な力で悪い人をやっつける。
パートナーは、かわいい喋るぬいぐるみ。
そんなファンタジーの世界を夢見ていた。
年を重ねて、大きくなって、そんな世界は無いことに気付いて。
それでもあきらめきれない、そんな夢があった。
誰もが同じく見る夢で、皆と一緒の一人の女の子としての夢で。
見つける。
その夢を実現できる、そんな途を。
頑張って走った。
私にはこれしかない、そう思って必死で走った。
誰にも負けないくらい好きだという思いをぶつけた。
そして、とうとう”そこ”へ行き着くことが出来た。
いらないものも、たくさん見てしまった。
無邪気な少女ではいられなかった。
でも其処に着いたと言う事実は、私をとても幸せにしてくれた。
……夢は、叶った。
キャラクターを演じている自分は、本当に充実していた。
今度は、夢を他の人たちに分けてあげたくなった。
私のこの気持ちをみんなに分けてあげられたら、どんなにいいだろう。
それは、新しい目的になった。
それから、今の”桜井あさひ”が始まった。
……世界が広がる。
爆発したように激しい勢いで、私はいろいろな人に出会った。
そしてとうとう、その人に出会う……。
初めての即売会。
初めて自分で買う同人誌。
それが、その人の初めての本だった。
初めて同士の二人。
でもそんなことを知るのは、もっともっと先の話。
キャラクターを演じていない私は本当に内気で、
いつもあの人の前でどもってばかり。
そこで、”モモ”というもう一人の私が出来る。
いつのまにか忘れていた、本当の私が其処にいた。
あの人はとてもいい人で。
モモという私を、嫌がりもせず、一人のファンとして扱ってくれて。
あの人の漫画は、私の心の奥底に埋まっていたものを掘り出してくれた。
それは、子供の頃のあの無邪気な憧れにも似ていて。
カードマスターピーチに出会った時の、あの衝撃にも似ていて……。
あさひとモモの間で揺れ動く”私”。
無邪気な少女でいられなかった”私”。
でもそんな私を潤してくれるものが、其処には確かにあった。
……夢は、まだ続いていた。
朝早く目覚める。
今日もいい天気だ。
寝ぼけた顔なんてしていられない。
お弁当も水筒も、準備はOK。
さあ行こう、こみっくパーティーへ。
……あの人がいる、こみっくパーティーへ。
――思ったより早く訪れた夢の終わり。
……もしできるのなら、もう一度読みたかったな。先生の同人誌……。
(041) 桜井あさひ 死亡
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