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PAST ENDING II〜EndOfDarkestHour 〜


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誤算だった。
十分な計算を経ているはずだったのに、何度も失敗する。
弾丸を温存するために、接近して背後から頭部を殴打するという、
実際的な方法を取った。

だが実際には、それにもかかわらず女は生きていて、
あまつさえ自分に反撃することすら可能だった。

もっとも、銃撃を受けたものの弾丸は貫通しており、
はっきり言って損傷は軽微だった。
微妙に吹き飛ばされてしまったのは、単純にこの体の重量が軽いからだ。

だが、よく思い出してみれば、
先ほどのもう一人の女に対する狙撃も失敗している。
原因は僅かな目標のずれ。
この体の軽量さは、常に目的遂行の枷となっている。

だが、この体が少しでも稼動する限り従わなくてはならない。
”私”が持っているただ一つのもの。
唯一つのロジック。

即ち、可能な限り広い範囲において殺戮を行う、
最も効率の良い方法で、より多く殺す。
私の目的は、まだ達せられてなどいない――。

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智子はへたり込んでいた。
一瞬に緊張させられた体は、大きな疲れを宿していた。

「大丈夫か〜、智子〜?」
晴子が座ったまま声を掛けてくる。

「どう……なんやろか?」
智子は木の下に這って移動し、そこによっかかって座った。

打たれた傷はひりつくが、そんなに大げさに騒ぐほどでもなかった。
だが、どうもさっきから体全体がおかしい気がする。
何か、……よく分からないが体の中でまずいことが起こってるような……。
反対の腕の、前からの傷が疼く。
気にならない程度だったはすの痛みや気持ち悪さが、なにやら倍増しているような……。……ともかくいい気持ちはしない。

――今の智子に、まさかそれが”腐食”の兆候であるなどということが
気付けるわけが無かった。

「マルチ……、それとセリオには、ちょう、かわいそうな真似をしたな……」
周りの木より一回り大きいそれの下で、智子は呟いた。

ふと顔をあげて、晴子の様子を見ようとする。
きっとひどい顔をしとるんやろな、
まあでもそれはうちも一緒か。
そんなことを考えながら。

しかし上げた視線の先には、見えてはならないものが見えてしまった。
倒れていたはずの彼女が立ち上がり、自動小銃を晴子に構えている!

「晴子さん、後ろや!」
「!?」

晴子はその声に反応し、後ろを”振り向かずに”横に転がった。

ダアァァァンンン!

一瞬前まで晴子がいた空間に、銃弾が叩きつけられる。

「こなくそっ」
晴子は体制を立て直し、膝立ちの状態で銃を構えた。
だが、”彼女”は即座にそれに反応する。

ダァァァァンン!
ダァァァァンン!

撃鉄が上がったままの銃、晴子は二度発砲した。
だがその二発はその二発とも”彼女”を捕らえることは無かった。

「何やてぇ!?」

”彼女”が高速で接近してくる。
晴子は後ろに跳び下がって、なんとか間合いをあけようとする。
だが、それさえも超える速度で彼女は迫ってきた。
”彼女”の両手が晴子を威嚇し、茂みの奥へと追いやる。

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「く、くそ……」
智子は立ち上がって追いかけようとする。
……だが、体に力が入らない。
むしろ、まるでどこからか流れ出ていくかのように、
全身の力が脱力していっている。

「んな……何やぁ……何やのこれはぁぁっ!?」

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「ぬぅ……、離さんかいこのボケェっ!」

”彼女”に押し倒される寸前、その勢いを利用して晴子は垂直に”彼女”を
蹴り上げる。

ドタンっっ!

吹き飛ばされる”彼女”。
だがその反動で晴子自身も強く地面に叩きつけられた。

「がはっっ……」

強烈な衝撃が内蔵を襲い、息が出来なくなる。
よろめきながら、なんとか晴子は後退して行く。
うずくまっている余裕など無い。
何せ相手は、痛みも苦しみも感じることの無いロボっトなのだから。

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おかしい……。
智子は考える。
”マルチ”にあんな力があるわけない。
いくら晴子さんが女やからって、大人に敵うほどの力を”マルチ”の体が
持っていたというのか?

……違う。

あれはセーブされていたはずの力だ。
自分の体を維持するために、無理が利かないようにされているはず。
だから、あれはオーバーヒートしているのと同じ状態だ……。
あらゆる力を、殺すことだけに傾けている。

『え……と、あと一日は問題なく動けるかと』

前にあの子が言っていた事が思い出される。
一日分の巨大なエネルギーを、”現在”のためだけの費やして、
晴子さんを襲っているというのか?

自由の利かない体、今すぐにでも助けに行きたい。
目の前で戦っている彼女を助けてやりたい。
それなのに……それなのに……。

「……ちくしょう……ちくしょう……、晴子さぁぁぁぁんっ!!」

もどかしさが募る。思いは声に現われる。
智子の魂の叫びが、辺り一体に木霊する。


ザッ。
土を踏みしめる音。
智子の前にもう一人の人物が……、
最後の人物が姿を見せた。

「――あんたは?」

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目標はなおも後退する。
思わぬ反撃であった。
いくら軽量とはいえ、しっかりと備えていれば、
あの程度の蹴りに弾き飛ばされることも無かったものの、
不安定な態勢ではそれも敵わなかった。

だがそんなことをして稼いだ間合いも、所詮一時のものに過ぎない。
約……10メートルほど開いたか?
その程度の距離、数秒で詰めることが出来る。
そして今度こそあの女を拘束し、至近距離からの発砲で確実にその命を奪う。

実行に移る。
ダメージはそれなりだったが、いらない機能を切り捨てることで、
それに対処することが出来た。
そういえば、私が切り捨てたものは一体なんだったんだろう?

――彼女はそれが、かつて持っていた”心”の名残だということなど、
全く気が付いていなかった。

「くっそ……、もう来おったか!」

女がさかぶ。
だからと言って、別にどうということも無いが。
あちらの移動速度よりもこちらの移動速度のほうが勝っている。
あと少しで接触する。

女が突き出していた木の根に足を取られる。
――急速な減速。
彼女に追いつく。
焦りと恐れに満ちた表情が伺える。
だがもう遅い。

まず、女の腹を蹴り上げる。

「がっ……!」
目標はうめきを上げて崩れ落ちる。
さあ、これでお終い。
”私は”銃を突きつけ、トリガーを引いた。

ダアァァァンンンッ!!

静寂に響き渡る銃声。
銃弾は見事に吹き飛ばした。

――”私”の右腕を。

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「――悪いな」

その男は呟いた。
白い煙を上げる銃口。
彼はデザート・イーグルを持っていた右手をたらし、
静かに彼女を見つめていた。

月明りを照り返し、厳かに輝くその銀髪の印象はどこと無く冷たく、
そして悲壮に思える。

闇に融けるその黒い衣装は、さながら死神のようで……。

”彼女”は自分を撃った男の方へ視線を向ける。
――目標を変更する必要を認める。
より多く殺すために、
より多く壊すために、
より長く生き残らなければならない。
その為には、この男は明らかな脅威だった。

”彼女”はいきなり身を翻し、凄まじいスピードで男に迫った。
先の無い右腕を気にする風も無く、正に吹き飛ばされるような勢いで……。
男の眼前に、”彼女”が迫る。

男は、その銀髪と対になるかのように輝く金色の瞳で、”彼女”を見据える。
その表情はどこと無く悲しげで――。

肩を伸ばし、腕を伸ばし、そして再び両手でデザート・イーグルを構える。
ターゲットは……”彼女”の頭部を捉えている。

「さよならだ」

往人はトリガーを引いた。

ズダァァアアンンッ!!

――そして、その悲しいプログラムは、とうとう終りの時を迎えた。

082 HMX-12型マルチ 死亡
【残り 37人】

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