PAST ENDING IV〜縁〜
観鈴は泣いた。
ただひたすら泣いた。
往人の胸の中で、遠慮の無い大きな声で泣き叫んだ。
往人は、黙って観鈴の小さな体を抱いていた。
多すぎた。
あまりにも多すぎた。
涙を流す理由が多すぎた。
再会の喜びも、生き延びる苦しさも、別れの悲しみも、全てが含まれていた。
ただただ涙を流す、それしか今の観鈴には出来なかった。
そしてようやく観鈴が泣き止んだとき、晴子も目を覚ました。
安らかに眠る智子を見て、
「何やぁ……、先に逝ってもうたんか……智子……」
晴子は泣かなかった。
ただ一言、寂しそうにそう言った。
寂しそうに……、とても寂しそうに……。
「うちがここにこうしておるっちゅうことは、
智子かあんたが助けてくれたっちゅうことか?」
「二人ともだ」
少しして、晴子はそれを往人に聞いた。
「そこの女に感謝しなくちゃならない……。
オレは彼女があんたの名前を叫んでるのを聞きつけなければ、
ここに来ることは無かった。
きっと銃声を避けていただろう。
オレが……いやオレたちが再会できたのは彼女のおかげだ」
「そうやったか……。ありがとうな、智子」
振り返った晴子は、智子に向かってそう言った。
「死に際に贈る人形劇ほど悲しいものは無い、
ということが身にしみて分かった。
結局、今も昔も、俺は何も出来なかった……」
智子を埋葬したあと、ぼそっと往人は呟いた。
ここの土は少し固くて、3人がかりでも穴を掘るのに
時間がかかってしまった。
「そんなことないよ」
観鈴は往人に言った。
「往人さんの人形劇は、心をあったかくさせてくれるから……。
だからきっと智子さんも安らかに眠っていられるんだよ」
「そうか……」
往人は言葉を濁した。
「せや。最後にのどかな気持ちでいられたんなら、
それは幸せなことや」
晴子が口を挟んだ。
「人がたくさん死んでいく。
無駄な死なんて一つも無いけど、せやけどその全てが弔われるわけでもない。
この殺伐とした空間で、死に場所を用意して、あの子は誰かに看取ってもらえたんや。
それだけで……十分何や」
――用意された未来を、否むために走る。
硝煙に消えた想いは、後進を行くものに継がれていく。
始まりの終りは、終りの始まり。
過ぎ去った結末を映し出していた長い夜は、
もう、終りを告げようとしていた――。