さまよう心と体
うーん……気がついたら暗い森の中…
私、どうしてたんだろ……
そういえばお姉ちゃんが言ってた。
私が夜な夜な山の神社に夢遊病者みたいに歩いて行って……って。
とりあえずここどこだろ?見覚えのない景色だよ。
きょろきょろと視線を動かそうとしたら…あれ?
体が…体が動かないよぉ〜……これってもしかして金縛り?
だけど視線だけは自由に動かせた。
まるで自分の体とは別に、別の私の目があるみたいな……そんな感じ。
あうっ……なんか刺さってるっ!…自分の腕に…矢!?
痛い!痛いよぉ〜…ってあれ?……痛くない。まるで自分の体じゃないみたい。
もしかして幽体離脱して別の体に入っちゃったとか……?
だけど……もう片方の無傷な右腕――黄色いバンダナが巻かれてる。
このバンダナ……間違いない。これ――やっぱり私だ。
気がついたら矢が刺さってて、そして体の自由がきかない…
うぬぬ、オカルトだよぉ〜。
これは夢かな?だって矢が刺さってても痛くないし。
しかも私は自分の体の中から風景を見てるし。
これは悪い夢なんだよ、きっと。
じゃあ、さっきまでなにしてたんだっけ?
それでようやく思い出した。
あの張り裂けるような悲しみを。――お姉ちゃん……
そういえばマナちゃん、きよみさんもいない。
どこに行っちゃたんだろう…
それも夢…だったのかな?
もしかして本当の私は自分の家のベットでうなされてるのかも。
だけど…この胸をしめつける痛みだけはとても夢には思えなくて。
あれこれ考えてる内に私の体が勝手に動き出した。
もう一人の夢の中の私……かな?なにしようとしてるんだろう。
ブシュッ……
一瞬血が飛んで、矢が引き抜かれた……ってわわわ、大変だよぉ、血が、血が……
だけど、思ったほど出血はなかった。
矢の先に鏃っていう矢印みたいな刃物がついてない。
ちょっと太めの針みたいな矢だったからすんなりと抜けた。
もしついてたら…うわわ、考えるだけで痛そう!
それに…よかったぁ、動脈は傷ついてないみたい。血がほとんど溢れ出てこない。
今のもう一人の私、まるで腕のいいお医者さんみたい。
聖お姉ちゃんみたいにかっこいいよぉ。
夢の中の私はその後、その傷をバンダナで塞ごうと――えっ!?
―――だ、だめぇっ!!!
私はただ、無我夢中で叫んだ。そのバンダナだけははずしたらダメ!
つ、通じたのかな?叫んだ途端バンダナをはずす直前のところで止まってくれた。
たとえ夢でもバンダナをはずしたくはなかったから。
うう、本当は傷口に何か巻かなきゃまずいと思うんだけど…ごめんね私。
あ、今度はどこに行くんだろう…
森をゆっくり進んで行く……
でも、さっき引き抜いた矢…置いていったほうがいいと思うよ。
そんな風にもってたらまるで夜中にナイフ持って歩いてる危ない人みたいだよぉ〜
聞いてるの?もう一人の私!?
あ…なんだろ…また意識が遠のいていく……
佳乃は森を抜け、岩場に囲まれた場所を独りふらふらと歩く。
やがて見えてくるひとりの遺体。それは先程絶命した杜若きよみのものだった。
佳乃はうつろな瞳でそれを一瞥すると、別段何事もなかったように再び歩き出した。
バンダナの巻かれた手には鏃のついていない矢を逆手にもって。
もう片方の傷ついた手で、元は聖のものであったバックを握って。
傷の割にその出血はひどいものではない。
が、それでも腕から流れる血はバックを少しずつ真紅に染めている。
本来であれば痛みでバックなど持てる状態ではないのだが、
佳乃はそれすらも感じていないように涼しい顔。
まるで人間としての大事な何かが欠落しているかのように。
「………」
遠くの方で銃声が聞こえる。
その音に導かれるように突き進んだ。
まるで生きている誰かを探し求めるかのように。
まだわずかに血のついている矢が、血を欲しているかのように不気味に――光っていた。
佳乃【刺さっていた矢を武器として回収】