丸い月。
階段を降りながら、彰は思い出す事があった。
「――そうだったな、通信機のところにも行かなくちゃな」
足の感覚は未だに戻らない。既に痛みは通り越している。
腐っていくかも知れない。早いところ処置をしなければいけないが――
七階の渡り廊下を歩きながら、彰はその部屋を見つけた。
明らかにそれと判る、他の部屋と一線を画す雰囲気の、
血の匂いが充満した、部屋だった。
兵士が二人、そこで死んでいた。
機関銃か何かで撃たれ、だらだらと血を流しながら。
「誰が――」
自分以外に侵入者がいたとは考えられないから、きっとそれは。
「――高槻、か」
先程彼の周りに護衛がいなかったのは、そういう理由からだったのか。
きっと錯乱した彼は、自分の味方をも、見境なく。
はっとして、彰は通信機の前に向かう――
それもまた、壊されていた。
モニターも、肝心の通信機器も、粉々に砕かれていた。
「しまったな」
叔父達と連絡を取る事は出来なくなってしまった。
自分たちがこの殺し合いに巻き込まれた理由を、結局
だが、爆弾装置は壊したのだから、なんとか脱出が成るかも知れない。
脱出する、まずはそれが第一だ。
初音ちゃん、冬弥、由綺。皆、もう、殺し合わなくて良いから――帰ろう。
真相を知るのは後でも良い。
ミステリーだって最後の数ページに真相は明らかになるものだから。
建物の扉は封鎖されていたので、適当に廊下の窓をサブマシンガンで破り、彰は建物を飛び出た。
――見上げると月。
月光が彰を濡らしていく。
なんて綺麗な空なのだろう。
少しだけ、涙が流れた。
美咲さん、はるか。
たとえ、ここから逃げ出せたとしても、
あの頃にはもう戻れないのか――
眩暈がした。
失血による眩暈ではなく、それは――
空に輝くのが、丸い、大きな月だったから。
森の中に入り、少し歩く。
茂みに、眠るように、彰は倒れ込んだ。
足が、そして、身体全部がそこで限界を迎えた。
少し休もう、と、茂みの中で、――多少なりの満足げな表情を浮かべ、
そして、少し哀しそうな顔で、
彰は眠りに落ちた。
――誰にも見つからないような、暗い暗いところで。
それはとても、晴れた夜で。
彰は、結局この後流れた放送を聞き逃した。
朝まで眠り呆けてしまったから。
――冬弥が死んだ事も、由綺が死んだ事も。
もう、日常はけして取り戻せないのだという、その報せを――
【七瀬彰 休息を取る 武器 サブマシンガン×1 拳銃×1】