no lookin' back
島の中の集落にある一軒家の中。
江藤結花・スフィー・来栖川芹香の3人は、これからどのように行動するか、話し合いの真っ最中だった。
放送で綾香とリアンが死んだことを知った時、3人はただただ自らの非力さを感じていた。
牧村南に襲撃されて散り散りになった6人は、スフィーと芹香以外再び出会うことはなかった。
あの時でさえ苦戦していたのに、今の状態で結界を壊そうというのは無理がある。
自分たちと同じように「力」を持つ人を捜そう、という意見もあった。
しかし、赤の他人から「手伝ってほしい」と言われて、おいそれと従う人が残っているか?
それ以前に、能力を持つ人がこの島にどれだけ残っているかもわからない。
堂々巡りを断ったのは、結花の一言だった。
「じゃあさ、このまま何もしないの?」
「……」
「何にしたって、やってみなくちゃわからないじゃない? 出来ないとか難しいとか、言ってるだけじゃ始まらないわよ」
「それはそうだけど…」
「ごたごた言わないの! それくらいしか生き残る手だてはないんでしょ?」
少々強引ではあったが、これで長い話し合いはようやく収束に向かった。
「もう、結花は何もしなくていいから気楽だよねぇ…」
約1名グチをこぼしていた者もいたが。
最終的に導き出された結論は、スフィーと芹香でもう一度あの結界に挑むこと。
万一力になれそうな人がいたなら、その力を借りることも一応念頭には置いていたが。
幸い、一晩休んだ間にスフィーの体も当初の大きさに戻っていた。
そして3人は出発の準備を始めた。
結花が台所から缶詰と缶切りを出し、芹香が家の中で使えそうな物を探している間に、
スフィーは家の周りを調べるため先に表に出た。
その時、道の向こうから歩いてくる見知った顔が目に留まった。
「あれは…、なつみ?」
その瞬間、スフィーの頭の中は高速回転していた。
なつみもグエンディーナの血を引く身で、自分たち程ではないけど「力」はある。
なつみならリアンの代わりになるかも…
そう思いながら、
「なつみ〜!」
スフィーはなつみに駆け寄った。
「なつみ、無事だったんだね」
「はい、なんとか」
「今までどこにいたの?」
「向こうの方にある学校です。あっちでは色々ありましたけど」
「で、今はひとりなんだ」
「はい」
「じゃあさ、これから一緒に行かない?」
なつみの表情が一瞬曇る。
「それは…、できません」
なつみの返答は、スフィーにとっては予想外のものだった。
「私、殺さなければいけない人がいるんです。健太郎さんを殺した、あの人を…」
なつみの口から出た名前に、スフィーも気色ばむ。
「だから、一緒に行くことはできません」
「……」
スフィーの心の中に、一瞬迷いが生じた。だが、もうスフィーの進む道はひとつしかなかった。
(私だって、けんたろを殺した相手が憎いよ。でも、もうけんたろは帰ってこないんだから。
もっと大きな事、しなくちゃいけないんだから…)
「そ、そうなんだ。それじゃあ仕方ないよね」
「お役に立てなくて…ごめんなさい」
「うん、私の分までお願いするよ」
「はいっ」
「あ、そうだ。なつみはどんな武器持ってるの?」
「…持ってない」
そう、なつみの唯一の武器だった刀は、あの人…茜に奪われていた。
「ねえ、何も武器持たないで殺しに行くの?」
「……」
「ちょっと待ってて!」
スフィーは、ちょうど玄関にいた結花からトカレフを受け取るとなつみに渡した。
「これ、持っていきなさい」
「ありが…とう」
なつみは受け取ったトカレフを鞄の中に押し込んで、
「また会えるといいね」
そう言って、スフィーたちに背を向け歩き出した。
「ねえ!」
なつみの後ろ姿に向かってスフィーが、
「今度会った時は、一緒に行こうね」
そう叫んだ。
なつみは振り返らず、手を挙げて答えた。
なつみを見送った後、
「……」
「うん」
「で、神社ってどっち?」
「とりあえず森の中だったような?」
「なんだか頼りないなぁ…」
「……」
3人は、再び森の中に入っていった。
なつみ【トカレフを入手(←結花)】
結花【缶詰・缶切りを入手】