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冷たいナイフ


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何か予感めいたモノがあったのかも知れない。
眠っていた折原浩平(014)は突然目を覚ました。
周りを見回すと七瀬留美(069)が散弾銃を抱え座ったまま眠っている。
見張りが寝てどうする、でも七瀬も疲れてるだろうから仕方ないか。
そう思いながらベッドから降りる。
勿論柏木耕一(019)も眠っている。
その時遠くで何かが聞こえた様な気がした。
これは……例の放送だ。
だがこの小屋の中ではよく聞こえない
聞き逃すわけにはいかない。
幸い体の調子は幾分ましになっている。
外に出ればまだここの中にいるよりはよく聞こえるだろう。
少しふらつきながら戸口まで歩み寄り外に出る。
ここなら放送が聞こえる。
そして次々と挙げられる死者の名前
「……018 柏木楓 ……」
「!!」
これって初音ちゃんのお姉さんなのか……そんな……
幸か不幸は他に知り合いの名前が読み上げられる事なく放送は終わった。
なんてこった、それに最後の「まだ一人も殺していないもの」に自分はともかく七瀬は……
その時ロッジに近づく人影があった。

学校での攻防が終わり里村茜(043)は辺りを彷徨っていた。
先程の戦いでも自分は甘さを見せてしまった。
これでまた自分を付け狙らう人が増えたのだ。
このままではいけない。いつか自分がやられてしまう。
このゲームが始まった頃のあの非情な自分はどこへ行ってしまったのだろうか……
矢張りあの百貨店で祐一と出会ってから全てがおかしくなってしまった。
今のこんな状態で祐一や、詩子と出会ったら私は一体どうなるのだろう?
そんな事を考えていると例の放送が辺りに響いていた。
祐一や詩子の名前はまだない……
どこかでほっとしている自分に気が付いた。
私はこれから……
その時前方にロッジらしきものが見えた。
近くに誰かいる。
それは同じクラスメートの折原浩平(014)だった。
考え事で注意力が散漫になっていたらしい、向こうが先に気が付いたらしく
少しおぼつかない足取りでこちらに向かってくる。
「浩平……」
ある考えが頭をかすめる。
今の私に出来るでしょうか……
だが茜は自分で既に答えを出していた。
あの空き地へ戻るには答えはそれしかないのだと。

「茜、会えてよかった。ってお前大丈夫なのか」
浩平は茜に近づいて声をかけた。
「浩平……大丈夫です」
血塗れの自分の制服を見て浩平は少し驚いているらしい。
浩平の方が自分よりよっぽど酷い怪我の状態だと思われるのに。
「どこか怪我は、柚木は一緒じゃないのか?」
「はい。まだ会ってません」
「そうか……、でもよかった。これでまだ会ってない知り合い後は繭と柚木だけだな。
幸い二人とも今のところ無事らしいし、なんとか見つけて合流したいと思ってるんだけど」
「……繭?」
「知らないか、本当は部外者なんだけど一時期俺達の教室にいたんだけどな。
ま柚木と違ってちゃんんと制服家の学校の制服着てたしな。
あれ七瀬のだけど」
「七瀬さん……」
「あ、そうそう今俺は七瀬と一緒なんだ、他にも変態マッチョみたいなヤツも一緒だけどな。
それに何人か信用できる知り合いが今は別行動取ってる」
「そうですか……」
何故か浩平は自分の事を全面的に信用しているみたいだが七瀬がいるとしたら状況は一変する。
彼女は先程の学校で自分の素性を知っているハズだ。
「茜はどうするんだ、柚木を探すにしても俺達と一緒にいないか?
ともかく少しぐらいは休んでいけよ」
浩平はロッジを指さして歩き出した。
「……大勢死にましたね」
浩平の後ろを歩きつつ茜は質問には答えずそう言った。
「ん、ああそうだな」
「長森さんも」
「……長森……瑞佳だけじゃないさ、先輩達に澪に、俺の親友シュンや住井……それに広瀬も……
大勢死にすぎたよ、瑞佳以外は看取ることも出来なかった。
みんな苦しまずに死ねたんだろうか……」
茜の決断の時は迫っていた。
「澪は苦しまずに死ねたと思います」
茜は静かに続けた。

「だって私が殺したんですから」
「え?」
次の瞬間振り返った浩平は腹部に生暖かい塊を押しつけられた様な衝撃を感じた。
「!!」
どうして茜が、ナイフ、血、血が流れている。
「私はこのゲームに乗ることにしました……だから最初に会った澪を、自分でも吃驚するほど冷静に殺しました。
私は生き残ってあの場所に戻ると誓ったのですから。
それからも続けて何人か殺しました。私の決意は揺るぎませんでした。
でも、ある人に偶然出会ってしまって私は、私は迷いました。」
茜は独り言の様にゆっくりと呟き続ける。
「このままでは私は今までみたいに人を殺せなくなってしまう。
そんな予感がしました。
今の自分があの澪を非情に殺した時とは違って甘くなっていると思いました。
このままではいけない、このままでは私もいつか誰かに殺される。
もう何人かに随分恨みを買いましたから。
その人達はきっと私を許さないでしょう。
だから私はもう一度非情になる事に決めました」
「いつもと違って随分饒舌じゃないか茜……
人をあやめるならもっと深く刺さないといけないぜ……がっ」
茜を抱きしめるようにもたれかかりながら浩平は口から血を吐いた。
「今浩平に会って、相変わらずの、でもこんな状況でもしっかりした浩平に出会って少し心が揺らぎました。
だから賭をする事に決めました。
ここで何の躊躇もなく貴方を刺せたなら私はまだ大丈夫、また非情になれると。
これで覚悟を決めました。
私はこれからも一人になるまで殺し続けます。
もう誰も私の望みを曇らせる事は出来ないんです。
きっと今の私なら祐一や詩子も躊躇わずに殺せます」
「嘘だな茜……お前には無理だよ」
「そんな事ありません」
「だったら何でお前は今泣いてるんだ」
「……浩平はあの人には全然似てませんが祐一には少し似ていました
詩子にも似ている所が……だから……だから……
浩平を、貴方を殺すことで祐一の事も吹っ切れると……思いました」
倒れそうな浩平を抱きしめながら嗚咽混じりに茜は呟き続ける。
何故か涙が止まらない。
「さよなら浩平……」
さっきから誰だよ祐一って……そんな事を考えながら浩平は意識が暗い闇の底に落ちていくのを感じていた。
あそこはきっと永遠よりも遠い所だ。

だが茜をこのままにするわけにはいかない。
茜が誰かを殺すのも誰かに殺されるのも、いやもう誰にも死んだり殺したりして欲しくなかった。
「茜、駄目だ……殺すのは……俺で最後にしてくれ、頼むよ」
「浩平……もう解っているんです。私はもう誰を失っても何も感じないって……」
茜、どうすれば、どうすれば茜の心を……
その時運悪くロッジから七瀬が出てきた。
「折原〜何処行ったのよちゃんと寝てなきゃ駄目じゃな……!」
こちらに気づいた。
「ちょっと、アンタ達ィ! 何してんのよ!」
どうやら俺が誰かに抱きついていると思っている様だ。
散弾銃を振り回しながらこちらにやってくる。
そりゃこの状況はそう見えなくもないが……その散弾銃で俺に突っ込みを入れるつもりか?
いや今はそんな場合じゃないんだ。
「アンタ、里村さん! 折原、そいつから早く離れて!」
だが七瀬は相手に気が付いた様だ、どういう事だ?
七瀬は茜が澪を、誰かを殺したのを知っていたのか?
だがここで二人を戦わせるわけにはいかない。
「逃げろ! 茜ッ!」
残った力で茜を突き飛ばす。
「行け!」
後ずさりながら呆然と自分を見つめる茜、だが直ぐに背を向けて駆け出した。
「待ちなさい!」
「待て、七瀬! 待ってくれ!」
「どうしてよ折原、!! アンタそれ」
七瀬が俺の腹に刺さったままのナイフを見て青ざめる。
「嘘、嘘でしょ折原!」
そのまま倒れ込む俺に泣き顔の七瀬が駆け寄ってきた。

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