×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

駆ける者たち


[Return Index]

下卑た、男の声がする。
――そしてまた死者の名前が島中に木霊した。

「(・∀・)…………また、だね」
「……ああ」

幾人か、
聞き覚えのある名があった。

藤田浩之。確かあの少年はそう名乗った。
(俺はさっさと帰りてーんだよ。
 ――あかり達と、一緒にな――)
あの少年は、もういない。
探していた少女であろう者の名も放送にあった。
二人は、出会えたのだろうか。せめてそうである事を祈りたい。

そして、覆製身のきよみの名があった。
犬飼によって哀しい生を送ることを余儀なくされた女だったが……
せめて最後は、長く苦しまずに終わったと思いたい。

((・∀・)あの人……幸せだったのかな……)
月代は、以前彼女に教えられたことを思い出す。
自分達は、昨日亡くなった「あの人」の複製だと言っていた。
怒っていた。悲しそうだった。自分が偽物だということに。
そして月代に対しても。
((・∀・)多分、幸せじゃなくて……だから「同じ」はずの
私が気楽に暮らしているのも許せなかったんだ)
でも、月代は思う。私も、彼女も、「あの人」とはやっぱり「同じ」ではないと。
――だから、月代は「月代」として、蝉丸と一緒に歩くのだ。そう、決めたのだ。

放送が聞こえた時、
二人は、一人の遺体を埋め終えたところだった。
砧夕霧の遺体である。
食料となりそうなものを探して歩く途中で、蝉丸が見つけたのだ。
彼女は、大振りの出刃包丁を固く握りしめたまま、
こめかみを撃たれ息絶えていた。
かなり大口径の銃によるものらしく、かつての愛らしい姿とは
似ても似つかぬ姿に変わり果てていた――。

そして死後かなりの時間が経っていた。
おそらく、開始直後にこの異様な状況に錯乱し、銃を持つ何者かに
攻撃を仕掛けて返り討ちに遭ったのだろう。

「(・∀・)また、アメフラシを一緒に探したかったな……」
「…………」

蝉丸は何も言わず、黙々と手早く彼女を埋葬した。月代もそれを手伝う。
非情かもしれないが、彼らは生きているのであり、生き残る意志も義務もある。
夕霧の他にも幾人かの遺体をみつけ、簡単に埋葬してきているが、自分たちが
生き残るために、死者に対して余り手間をかけるわけにはいかなかった。

月代などはだいぶ無理をしているようだが、まだ気はしっかりしている。
どこにこれほどの気丈さがあったのかと、蝉丸は内心驚いていた。
夕霧の持っていた包丁は月代が持つことにした。武器としては非力でも、
食材を手に入れた時などには役に立つだろう。

しばしの黙祷ののち、二人はまた歩き始める。
脱出するにせよ、とにかく、生きている誰かに会う必要がある。あの黒い少年と
別れてから、土に残された足跡や車の轍などを辿って探しているのだが、どうも
出会うのは遺体ばかりという状況が続いていた。

――と、その時。
何者かの駆ける音を、蝉丸の耳はとらえた。
「(・∀・)蝉丸、あっちの方……何か動いてるよ!」
「分かっている」
刀の鯉口を切り、事に備える。相手が何者だろうと、瞬時に対応できるように。


天沢郁未は、走っていた。
昨晩は葉子を捜していったんスタート地点まで戻り、そこで過ごした。
大きく「3」という数字の書かれたガラス張りの建物。当初は、銃を構えたFARGO
の信者らしき者達が居たのだが、郁未が辿り着いた時はもう誰もいなかった。
――おそらく、高槻のところに行ったのだ。そう考えて、足跡を辿ろうと努力して
みた。……しかしなにぶん、素人である。あっさりと見失ってしまい、しかたなく
昨日は建物の近辺で食料を集めるのに費やしてそのまま一夜を明かした。バッグが
あればもう少し食料は保ったはずなのだが。
(まったく、あの子……)
彼女とあのキノコがどうなったのか、多少気にはなったが……まぁ、無いものは仕方
ない。どんな効果があるやもしれないし、むしろ無い方が気が楽だ。
――もし柏木耕一がそこに居れば、「きっとおしとやかなお嬢様になれるぞ」とか
わけの分からないことを言ったかもしれない。

そして今朝になって改めて高槻や葉子、晴香、由衣と――あの少年を捜すべく出発
したのはいいが――その途中で、彼女は、見てしまった。

見知った顔の
 血まみれの死体を担いで歩く
  一人の女性を

――水瀬秋子。
彼女は、微笑っていた。

笑顔で、疲れも知らぬように、こちらに気付くこともなく、
前を向いて、歩いていた。

怖かった。一目見た瞬間、戦慄が走った。
もう「彼女」が……以前遭った時の「彼女」ではないと、分かってしまった。
だから、全力で逃げた。
(決着をつけましょう)
以前別れた時、彼女はそう言った。郁未もそう覚悟していた。
だが、だが、あれは……

追ってはこなかった。それでも郁未は走り続けた。
藪などで手足に擦り傷ができるのもかまわず逃げながら、
思考がぐるぐると回る。
(何、なんなの、あれ…!)
(私も……ああなっちゃうのかな)
(そんなはずない。私は狂ったりしない)
(……本当に? 本当にそう言い切れるの!?)

怖い。
だが、心の中でそれを笑う私もいる。
(あなたはもう、それに溺れるほど弱くはないはずよ)
もう一人の私の、いや、私達の声。
そしてお母さんの声。
(私があこがれる冷淡な強さ。不可視の力を制御するための、強さ。
それをあなたは持っている)
……そう。多分私の本性は、そうなのだ。だから……なおさら、怖い。

藪を抜ける。
そこで一息ついて、郁未は気がついた。
彼女を見る二つの視線に。


そして、互いに警戒しながらの、自己紹介が始まる。
ことここに至っては相手が殺戮者でない、との保証はどこにもないのだ。
例え「危害を加える気はない」と言ってみても、信用できるとは限らない。
まして、
蝉丸にしてみれば、彼女の視線に殺人を厭わぬ強さを見て取ることができたし、
郁未にしてみれば、刀を持ち研ぎ澄まされた気配を持つ男は充分に警戒に値した。
――怪しいお面をかぶった女の子の方はともかくとして。

「坂神…蝉丸さんと、月代さん、ね」
「天沢……確か、最初の放送の5人に入っていた名だな」
「ええ」

「……こちらの目的は、この島を出来るだけ多くの者が脱出できるよう信頼できる
仲間を集めることだ。……そちらの目的は?」
「多分同じ……知り合いに会って、高槻を倒すこと」
葉子のことは詳しく言う必要はない。却って警戒されるだけだろうから。

「そうか」
多少、蝉丸の緊張が解ける。もっとも、隙らしい隙は全く見せようとはしない。
(かなり……こういうのに慣れてるのね。武術家か、自衛官とかかな?)
不可視の力が弱まっている今の状態で、敵に回したくはない相手だ。できるだけ、
友好的な態度を崩さないよう意識する。

「……少し聞くが……こういう男を見ていないか?」
と、蝉丸が御堂の風体を説明する。彼にはあの男の消息が分からないことが気にか
かっていた。蝉丸が知る限りでは、参加者の中で最も恐ろしい相手。「完全体」の
蝉丸に対して敵愾心を持っているようだが、もし、かつて共に戦った時のように味
方にできれば、頼もしいことこの上ない。敵に回ったとしたら――恐るべき脅威だ。

「……ごめんなさい。見ていないわ」
「そうか」
「じゃあこっちも聞きたいんだけど」
「なんだ?」
葉子や晴香、由衣、そして少年について説明する。
「……という人達を見なかった?」
先ほどの放送では、葉子達はまだ名前を呼ばれていない。この島のどこかにいる
はずだ。

「(・∀・)あ、その黒い服の男の人には会ったよ」
後ろから月代が声を上げる。
「! ……どこで?」
「彼は、君の仲間なのか?」
「……多分」
仲間と呼ぶには少々抵抗がある。信じ切れるかといえば、嘘になる。
だが、今の状況で「彼」が高槻に与することは考えがたかった。
葉子の事もある。「彼」ならば、何か知っているかもしれない。

「そうか」
そして蝉丸は、少年と会った時の事を話し始めた。武器のこと、仲間を集めること、
そして――岩棚に隠された基地のことを。

「……そっちの方に、案内してもらえない?」
「む。……できるならば、もう少し武装や仲間を集めてからにしたい所だが」
「なら、場所を教えて。とりあえず私一人で行ってみる」
「……無茶はするものではないぞ」
「分かってるわ」
「そうか」
本当は、共に仲間を探してもらいたかったが、彼女の視線はどこまでも強く――
引き留めるのをためらわせるものがあった。
「武器の類は持っているか?」
「……いいえ」
今郁未の手元にあるのは、水と食料、そして花火各種とバルサンだけであった。
以前持っていた手斧は、あの戦いの後柄にヒビが入っていることに気づき、
建物のところに置いてきてしまった。危なくていざという時に使えないからだ。
尖った石を何個か持ち歩いてはいたが、武器としてはあまりにも心もとない。

蝉丸は少年に貰った銃を差し出そうかと思ったが、複数の殺戮者たちを相手にする
場合、刀だけでは圧倒的に不利になる。待ちかまえる危険が分からぬ以上、迂闊に
銃を手放すわけにはいかなかった。

「(・∀・)じゃあ、これ持ってく?」
月代が、夕霧の持っていた包丁を差し出す。
「いいの?」
「(・∀・)うん。私には、こっちの槍もあるし」
月代にしてみれば、戦いになった場合、残って包丁で戦うよりも全力で逃げた方が、
蝉丸の負担を減らすことになる、との考えもあった。白兵戦で戦うよりはむしろ、
後ろで石を投げたり、人を呼んでくるなどして蝉丸を援護した方がまだマシだろう。
自分は、蝉丸を助けねばならないのだ。足手まといになるような戦い方をすべきで
はなかった。

「……じゃあ、受け取っておくわ」
余り役に立つ武器とはいえないが、不可視の力と併用すれば扉の鍵などを壊すのには
使えるかもしれない。郁未は包丁を受け取り、バッグの中に入れた。

「それじゃ私は行くけど……」
ふと、気がついて振り返る。
「……あの向こうには行かない方がいいわ」
「何故だ?」
「恐ろしい人が、いるから。仲間を捜すなら、他を探した方がいいと思う。えーと、
あっちの方向に結構行ったら、池があるんだけど……私としては信用できそうな人達
が、その辺にいたわ。昨日のことだから、移動しちゃってるかもしれないけどね」
「? ……分かった」
多少疑問は残るが、声に含まれる真剣さに、蝉丸は頷いた。
「では、気をつけてな」
「あなた達もね」
「(・∀・)うん」

そして三人は別れる。
もう郁未の背中が見えなくなったころ、月代が声をあげた。
「(・∀・)あ」
「なんだ?」
「(・∀・)またこのパソコンの使い方、聞き忘れた。知ってたかもしれないのに」
「……忘れていた」
蝉丸はもちろん、野生児である月代もパソコンの使い方など知らない。
今度誰かに出会ったら、聞くつもりだったのだが。
「仕方がない。また、次の機会に訊くしかないだろう」
「(・∀・)そうだね」

二人はまた歩き出す。

次の、驚くべき内容の放送があったのは、それからしばらく経ってのことだった。

【蝉丸・月代、郁未と出会い別れる。郁未は少年の後を追う】
【夕霧の包丁、郁未の手に渡る】

[←Before Page] [Next Page→]