こころの在り方
少しばかり退いた夜が、半端な明るさを現そうとしているころ。
早起きの鳥たちがチチチ、と挨拶を始めるなかで。
祐一は暗く、無言のままだった。
今回の放送での死人は実に多かった。
中でも堪えたのは、その中に名雪がいたことだ。
自分を助けようとして罪を犯した名雪。
受け入れてやる事のできなかった自分が、今では情けない。
狂おしいばかりに慟哭する秋子さんの姿が目に浮かぶようだ。
もはや残る知り合いは、あまりにも少ない。
詩子は、あの少年と一緒に無事でいるだろうか?
あゆは、どうしてるだろう?
そして-----茜は、今何処に?
ぼんやりと歩く祐一の足音に反応して白鳩がはばたいていく。
慌てて飛び去ったためか、ひらりと羽根をこぼして消える。
何気なく羽根を拾い、手の平に置いてみる。
なんとなく、あゆの事を思い出したりしていた。
(意識の散漫さは、自らの崩壊に対する防御反応かしら?
自閉に陥るほどではないようだけど、不安定さが露呈している。
危険な兆候だわ)
繭が放送以来、声を掛けることもなく黙々と追従していたのは、そうした
洞察のためである。
どんな事情があったのかは解らない。
唯一解るのは、今は静かに見守る事しかできないという事だ。
鋭利に物事を捉え、正確に話すことができる今の自分が、こんな時
あまりに無力なのが悔しくてならなかった。
こころの在り方は、現代科学さえ征服できぬ霊峰なのだ。
羽根を手に、やさしい目をして立ち止まった祐一を窺う。
白い、羽根。
動物という、言葉をもたぬ世界の隣人は時として人の心を和ませる。
「…動物、好き?」
思わず訊いていた。自然と出た言葉だった。
「ん?…ああ、嫌いじゃない」
「私、動物飼ってたことがあってね。
すごく依存してた。
だから死んじゃったとき、ほんとうに辛かったわ」
「へえ…意外って言っちゃ、失礼か?」
少しだけ頬を緩めて祐一が言う。いい傾向だ。
「そうね、どうしてそこまで依存していたかなんて、他人には決して
解らないから仕方がないけど失礼ね」
繭も少しだけ笑い、続ける。
「みゅーって言う名前でね…」
「μ?物理とかで出てくるやつか?」
「違うわよ、ただ語感が可愛かったからみゅーって…」
不自然なところで言葉を切る繭を不審げに窺う祐一。
「どうした?」
「みゅー…」
「繭?」
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そう、こころの在り方は。
現代科学さえ征服できぬ霊峰なのだ。