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丘の上の遭遇


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小高い丘の上。
ブロロロロ……プシュゥッ……
今まで勢いよく走っていた単車がゆっくりと速度を落とす。
「おい、降りろ」
ドスのきいた男の声。
「な、なに?え、エンスト?」
「下僕は知らんくせにそんな言葉は知ってんのか…」
「と、とーぜんじゃない♪わたしはくいーんなんだから!」
御堂のたっぷりと皮肉が込められたは空振りに終わった。
「はあ…まあいいけどよ…とにかく降りろ。こっからは歩きだ」
単純に、ここからは徒歩の移動でないとまずい。
暗号に記されたもうひとつの拠点は、すぐそこなのだから。
下手に音を立てて気づかれてはかなわない。
「ここからは爆音鳴らして走ると都合が悪いんだよ…
 確実に狙われるぜぇ」
「……それならここまでもやばかったんじゃないの?」
ある意味的を射た疑問。もっともだ。
もしゲームに乗った奴に見つかったら狙撃されていたかもしれない。
「ふん、俺は最強の火戦体だぜ。よけるのぐらい簡単だ。いくら単車に乗ってるからって
 俺様に狙撃なんぞ効くかよ…」
たとえ岩切や蝉丸であっても猛スピードの単車を自在に操る御堂を狙撃するなど不可能だ。
「だったら乗ってってもいいんじゃないの?」
「ここからは確実に狙撃されんだよ。されると分かっててされる馬鹿はいねぇ」
丘のはるか眼前に見える小さな岩山。
「あそこだ……あそこにいるぜ。恐らくうじゃうじゃな」
「て、てき…?」
「そうだな…敵の親玉さんがいるかどうかは知らねぇがよ……
 敵のアジトがあそこのどこかに隠されてんだよ」

「つーか、何で誰にも会わねえんだ?坂上もほかの奴らもどこにいるんだか……」
「あんたが爆音とどろかせて爆走ってるからじゃないの?
 わたしだったらそんな音に近づかないけど」
「……ちっ」
「あたま悪いように見えても本当は悪くないんじゃ…なんて思ったけどやっぱりバカね」
(このアマ…おめぇにだけは言われたくねぇんだよ!!)
「そ、そんな恐い顔したって無駄よ!わたしには『ぽち』が……」
「……それ、ハッタリだろ?」
当初すっかりだまされていた御堂だったが、
これだけ一緒に行動すれば現代の知識が低い御堂でもさすがに気づいていた。
「な、なに言ってんのよ!そ、そんなわけ……!!」
「はあ……」

ヤキが回ったものだ。御堂は思う。
一体どこからケチがつき始めていたのだろうか。
(そもそもこの猫を殺らなかった時からだろうな)
熱のこもった暖かい単車のシートの上ですやすやと眠る猫と毛玉を睨む。
「はあ……」
再び溜め息。
羽根をつけた臆病な少女、そして今も同行している足手まといの少女。
(なんで殺してねぇんだろうな、俺様は)
かつての御堂であれば躊躇せずに殺していたはずだ。
その二人の少女なら簡単に殺せる。
(いつでも殺せる…だから生かしたってのか?前の俺なら考えられねぇぜ)
この島に来てから女難、水難の連続だ。
ボリボリ…御堂は情けなさそうに頭を掻いた。
「わっ、ばっちいっ!フケが飛ぶからやめてっ!!」
「フケなんかあるか、このアマ!」

「しかし…いかな俺でも、さすがに一人で突っ込む気にはなれねぇな」
「さっきは突っ込んだくせに」
「うるせぇ」
さっきのほったて小屋のような場所とワケが違う。なにせその規模すらも分からないのだ。
拠点は一人で突入するとかなりヤバイ気がする。
ただの勘だ。だが、こと戦闘に関しての勘にはかなり自信がある。
「巧妙に隠された入り口だ、どこかにつながってると考える方が自然だろ?」
もしかしたらこの岩山の下には地下通路が広がっているかもしれない。
(もしそうなら入り口は一つとは限らねぇな……)
まさかとは思うが、蝉丸あたりは既に突入している…なんて考えが頭に浮かんだ。
(いけ好かねぇ奴だが、そういった行動力は俺以上だからな……)
「でもさ、突っ込むの一人じゃないじゃない」
御堂の思考をさえぎるようにはさまれた言葉。
「あん?」
「わたしよ、わ・た・し!!わたしがいるじゃない」
「………はあ……っ」
御堂は今までで一番大きな溜め息をついた。
「あによ、したぼくのくせにその態度は!!」
この女がついてくるならまだ一人で突入したほうがマシだと思える。
「分かってんのかおめぇ……死ぬぜ」
「……ぐっ……!!」
その意味を、ゆっくりと確かめるように詠美がうなずく。
本能は正直、小さな呻き声が漏れた。

「分かってる…だけど……わたしは和樹や楓ちゃんの為にも…」
「だから…おめぇは確実に死ぬんだって。おめぇの願いは犬死することかぁ?」
別にこの女が死ぬのは知ったことじゃない。死ぬなら勝手に死ねばいい。
しかし、彼女が御堂の行動に殉じて殺されるのだけはなぜか見たくなかった。
(だが…こいつが死ぬのを考えるとなぜか寝覚めが悪ぃぜ……)
これもまた前までなら考えられなかった思考の一つだ。
「まあ、まだ突入しねぇからよ……俺も犬死はごめんだ――……っ!!」
その直後――御堂は詠美を片手で摘み上げると、単車の向こう側へと投げ捨てた。
「わわわっ……ちょっと何すんのよ!!」
派手に転がった詠美が単車の向こう側から顔を出す――のを再び御堂が手で沈めた。
「ぐえっ……ちょっと!」
「動くんじゃねぇっ!!」
小声でそう叫びながら、単車の上の二匹の獣を詠美の方へと突き落とす。
「ぴ、ぴこっ!!」
「……にゃうっ!!」
「わわっ!いきなりこの子達投げ捨てないで!」
「黙ってろ――。……誰だ、そこにいる奴は…!!」
後半はちょうど詠美を投げ捨てた逆側……小高い丘に生える木々の向こう側……
「出て来ないなら撃ち殺すぜ……」
デザートイーグルを林に向け、そう呟く。
「おやおや…恐いですねぇ…」
木の影から眼鏡をかけた中年の男が一人出てくる。
そして、男に付き従うようにもう一人女が現れる。
「先程犬死はごめんだ…と言ってましたよね…
 残念です…あなた方はここで犬死するんですよ」
眼鏡の向こうで、その眼光が妖しく光った。

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