夜明けの死闘〜結末〜
「あ……あ……」
詠美の目の前で膝から力なく倒れる御堂。
「――任務完了――ただいまより帰還します」
HM-13の衣服はすでに燃えつき、中に着ていた白いスウェットスーツのようなものがむきだしになっていた。
そのスーツもすでに黒焦げて見る影もない。
だが、恐るべきはその装甲か、あの爆発の中でもほとんどボディ自体は無傷だった。
半ば放心している詠美を一度見やり、そのまま御堂達が元来た方へと去っていく。
「う、う……………うぁ〜〜〜!!」
詠美はHMの後姿に向かってがむしゃらに走った。
「なんで、どうして!?よくも……よくも――!!」
HMを後ろから羽交い締めにして投げ飛ばす。
「――敵とみなし、排除します――」
「うああああっ!!」
詠美はそのまま転がったHMに馬乗りになって、顔面を殴りつける。
ガン!
「どうして!?どうして殺すの!?なんで!?」
HMの顔面の素材は硬く、ただ詠美の拳を傷つけるだけでしかなかった。
それでも詠美は構わずに殴りつづける。
「――目標捕捉――」
HMは気にした風もなく、ゆっくりと銃を装填させると、詠美に銃口を向けた。
「うああっ!!」
涙が、拳からの血があたり一面に舞う。
が、HM-13は気にした風もなく。
ガーーン!!
そして、無情にも銃口が引かれた。
「ぴこ〜っ!!」
毛玉――ポテトの勢いをつけた体当たりがHMの腕に命中し、放たれた弾丸は詠美の脇へとそれる。
「――!!」
HMは無表情のまま、今度はポテトに向けもう片腕の銃で引き金を引いた。
「にゃーーう!!」
その瞬間、次は猫――ぴろがHMの顔面を覆い隠す。
そしてまた狙いが逸れる。
「……!!」
HMはへばりついたぴろをひきはがすとポテトへと叩きつける。
「ふぎゃっ!!」
「びごっ!!」
二匹は絡み合いながら地面を転がっていく。
同時に、今度は詠美を力任せに弾き飛ばしながら立ち上がる。
「あうっ…!!」
詠美もまた地面に転がる。その時手に触れたもの。
ポテトが体当たりしたときに弾き飛ばされた拳銃。
「うああっ!!」
半ば狂乱しながらそれを奪い取ると、HMに向けて引き金を引いた。
ガイーンガイーンガイーン!!
連続しての金属音。
5、6発は撃っただろうか。
その後は、詠美がいくら引き金を引いてもカチッカチッ…というスイッチ音が響くだけでしかなかった。
「ひっ……」
HM-13が再び詠美の頭に銃口を向けた。
ドン!!
銃声が1発響いた。
ジ……ジジジ……ッ!!
スパークが巻き起こる。
詠美には何が起こったのか分からなかった。
奇妙な機械音を発しながらHMが右眼を押さえて呻いた。
「任…ム……ススススイイイイ行シマス……」
よろよろと右側へと体を向け、銃口を構える。
そこには死んだはずだった御堂が銃を構え立っていた。
その左胸からはうっすらと血が滲んで服を濡らしている。
ドン!!ドン!!
すでに捕捉機能が破壊されたのか、あらぬ方向へと弾丸を飛ばしながら御堂へと近づく。
「自慢のボディとやらは傷つかなくても、目ん玉はやわらけぇままだった見てえだな」
「目標……捕捉失敗……」
HMが感情のない機械であるにもかかわらず信じられないと言ったような目を向けた。
「弱点さえ分かれば簡単だ…言ったろ?銃の腕はプロ級だってな……」
再び弾を装填し、御堂が銃を構えた。
「任務……スススイ行シまス!!」
ほとんど執念のようにHMが御堂へと走り寄る。
「くたばりな、化け物!」
ドン!
ただ一発だけ放たれた銃弾が正確にHMの左眼を撃ちぬき――!!
ボン!!……ジジジ……シュウ………
意外に小さな爆発と共に頭部が弾け飛び――そのまま倒れ動かなくなった。
「けっ…まあ、苦戦はしたがなんとかなったようだな」
そう、倒れて動かないHMに吐き捨てる。
それから、よろめきつつもゆっくりと御堂は詠美へと近づいた。
「おい、無事か?」
「い、いちおう……って、どうして生きてるのよぅ!!」
安心したように顔にしわを寄せ、詠美は泣き出した。
「単車で逃げてる間、念の為こいつを胸にくくりつけて置いたんだよ。
さすがに無傷とはいかねぇし、衝撃で一瞬気絶しちまったが…
なんとか命だけは助かったみてぇだな」
穴の開いた桜井あさひの描かれたバインダーを詠美の前へと放る。
皮肉にも、描かれたあさひの心臓部分に穴が開き、血が付着している。
まるであさひが身代わりになったかのように。
「はからずも本当のお守りになっちまったようだな」
御堂の胸には浅く傷がついていたが、出血はほとんどなかった。
「あのろぼっとは位置捕捉はできても生死判定はできなかったらしいな。もしそれがあれば負けてたのは
俺様だったかもしれねぇな」
「ううう……」
未だすすり泣く詠美を片手で担ぎ、また寝ている――というか気絶している――2匹の獣を
ひょいと持ち上げる。
「人が寝てる間になんか活躍してたじゃねぇか。大した武器だぜこいつらは…
感謝しとけよ、おめぇを守った騎士様なんだからよ」
からかうように――あるいは皮肉か――詠美の腕に2匹を抱かせる。
「ふみゅん……」
その拳からはまだ真新しい血が滴っていた。
(ちっ、一度休憩してやるか、俺も単車から飛び降りたダメージがかなりあるしな…くそおもしろくもねぇ…)
詠美に…というよりも自分の行動に腹立たせながら安全そうな雑木林へと入っていった。
(そういやあの源五郎とかいう奴が、坂上がどうこう…とか言ってたな…
まあ、こんな島で朽ちるタマじゃねぇがよ…俺以外の奴に殺られんじゃねぇぞ)
御堂が単車で去り、HM-13がそれを追ってから約5分。
「HM-13…任務失敗、破壊サレマシタ」
御堂と対峙した小高い丘で煙草を吸っていた源五郎の元にやってきた小柄な少女。
それはマルチに非常によく似ていた。
「そうか……うーん、勝てると思ったんだけどねぇ…」
もう一体の戦闘用HM、HM-12は遠くで起こった事態を告げる。
「まいったなぁ…あの装甲高いんだよね…キミとアレの2体を造るのにどれだけお金がかかったか…」
だが、その顔はいつも通りに…何事もなかったかのように涼しい顔。
「源之助さんに怒られそうだねぇ……HM-12、キミはいつ奴が来てもいいように
秘密通路の警備に当たってくれ」
「ドノ通路デショウカ……」
「うん、御堂が知ってるのはその岩山だけだからね」
源五郎が再び紫煙を吐き出した。
「とりあえずその岩山からマザーコンピューターへ続く通路を守備しといてくれ。
ぶっちゃけた話、それさえ無事なら例え100人全員に逃げ出されたとしても問題ないからねぇ」
「カシコマリマシタ」
HMが会釈し、岩山の向こうへと消えていく。
「ふう…やっぱり訓練された人間のほうが戦闘プログラムより優れているのかねぇ…」
自嘲気味に笑う源五郎だけがその場に残された。
089 御堂【桜井あさひトレーティングカード全108種バインダー付き 紛失】
HM-13戦闘型 破壊、戦闘不能
HM-12戦闘型 マザーコンピューターの警備