校舎という名の墓場


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ああ、耕一?梓だよ、梓。
ロクに話もせずに別れちゃって済まなかったね。

偽善者な-----じゃないよ、この場合は意地っ張りな、だね。
そんな千鶴姉がさ。
物事が理想通りに進まないのを自分のせいにして、相変わらずアンタに相談も
せず飛び出しちゃったわけよ。
顔向けできない、とか思ってるんだろうね。バカだよねえ。
アタシ達が言えた立場じゃないけど。
そんな意地っ張りな千鶴姉に代わって、あたしが解説するよ。

とにかく初音と楓を捜そうってんでさ。
まず初音が行方不明になった学校に向かってたんだ。
放送に名前が出ない限り必ず会えるさ、とか楽天的なこと言ってね。

 
「…それにしてもさ。何であいつら、誰が死んだとか判るんだろ?」
「きっとね、お空から見てるんだよ!映画とかでやってたもん!」
あゆが空を見上げる。つられてアタシも。
「…でもさ、そしたら林の中とか建物の中で死んだら判らな…」
「あ…うぐぅ…」
これから行こうとする建物の中で死んだ少女の事を思い出し、なんだか二人して
暗い気分になってしまう。ついでに空から監視って案も没になり消沈する。

「彼らは位置も、掴んでるみたいなのよ」
聞いてなかったようで聞いていたらしい千鶴姉が発言する。
高槻に会った時のこと。
間違いなく、千鶴姉を目的に捜していたと思われる高槻の言動のこと。
…この島で希望どおりの人物に難なく出会えるのは、確かに不自然だ。
「そうなると、何かでモニタリングしてるとしか思えないのよね」
結論は、そういう事らしい。
「でも、何かって?」
「あゆ、わかったよっ!」
はいはいはい、と手を上げるあゆ。発言を許すアタシ。
「発信機だよっ!マンガとかでやってたもん!」
「そんなもんどこに…」
言い返そうとしたアタシに向かって、苦笑しながらお腹を抑える千鶴姉。
…そうだ、これがあった。お腹の中に、物騒な奴が。

苦りきった顔で、三人して腹を抑える。
「たぶん、発信機も兼ねてるのよ。
 胃内pHか体温か、心音を感知して随時送信してるんでしょうね」
「ぺーはー?」
「…ってなんだっけ?」
あゆと二人で首をかしげる。
苦笑して説明しようとする千鶴姉は、口を開きかけてもう一度考え、首を振る。
「pHと温度は、恐らくこの際関係ないわね…食事は問題ないし、死亡してから変化
 するのに時間がかかり過ぎるわ」
「ふーん。じゃ心音を感知して送ってるの?」
たぶんね、と答える千鶴姉に質問を重ねる。
「でもさ、どうして胃の中だって思うの?」
「最初の方の放送で言ってたでしょ。”吐いたらドカン”って。
 ようするに、爆弾は少なくとも吐ける位置にあるのよ」

ふーん、と解ったような解らないような気分で感心する。
「吐くと心音が感知できなくなるから、それでドカンってこと?」
「だめだよっ!それだと死んじゃったらみんなバクハツしちゃうよっ!」
あゆが結構怖いことを言う…が、確かにそのとおり。
それを受けて、千鶴姉が考えながら答える。
「うーん…生死判定と、吐いたか吐かないかは別なんでしょうね」
「そんなの見分けつくの?死体と体外の区別をつけるって事でしょ?」
「そうね-----

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高槻が、つまらなそうに画面を見ている。
1番モニターには現在最も成績の良い043里村茜が映っている。
他の人物達も各モニターに映っているが100個のモニターがあるわけではなく、
島内のほぼ全ての場所を上から映し、発信機とシンクロさせて人物が確認される
位置をロボットが拡大、各々の行動を追跡し映すかどうかを決定しているのだ。

「そっちはどうだあ?」
くるりと椅子を回しレーダーを監視する来栖川のロボットに尋ねる。
「003、005、009、011、021…」
「ああ、今モニターに出てる連中の確認はいい。出てないのはどうだ?」
「001、046と林道を移動中。一秒以上モニターされることは最低10分ありませんが、
 モニターONいたしますか?」
「相澤と…046は椎名か。まあチラチラ画面見ても仕方が無いからな。
 他の誰かと遭遇しない限りOFFでかまわん」
「了解。017、020、061まもなく林道を抜け校舎裏門に到達します。
 モニターONいたしますか?」
「柏木長女と次女に、月宮か…裏門は映るよな?林を抜けたら3番に映せ」
「了解。029、094家屋内に停止中。
 モニターONしますか?」
「あーそいつらか-----

全設定を更新し(更新するのはロボットなのだが)、だらしなく椅子にかける高槻。
そのまま首だけ捻って後ろに控えるロボットに尋ねる。
「そろそろ放送だな?今何人だ?」
「はい、13人です」
「おっ、新記録じゃないか?だがまだまだぬるいなー」
おもしろき こともなき世を おもしろく。
高槻はちょっとだけ嬉しそうにマイクを手にとった。

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そんなふうに、お腹の爆弾の話をしてるときにさ。
放送が-----あったんだ。
それで何がおこったか、耕一には大体解るよな?

アタシは語彙が少ないからなんとも良い台詞は言えないんだけど。
悲しいっていうより、全然会えなかったのが…悔しかったかな。
この服だって千鶴姉はともかく、アタシよりも楓のほうが似合うと思うんだよね。
姉妹全員揃って、また楽しく騒げたらどんなにいいかと思ってたけど。
もう、駄目なんだなって思ったらガックリきたよ。

でさ…アタシもそれなりだったけど、千鶴姉は…そりゃ凄かったんだよ。
空気が冷えて来てたの判ったからね。
ひょっとしたら重みも増してたかもしれない。
なにしろ千鶴姉は楓に一回会えてたみたいなんだけど…ひと悶着あったみたい
でさ、それが余計に堪えたんだろうね。

耕一も鬼になっちまったことがあるって言ってただろ?
あのまま放って置いたら、多分なってたよアレは。
あゆと二人がかりで止めてさ。
うん、正直おっかなかったけどね。
…でも、止められた。三人で来て、ホント良かったと思ったよ。
え?何言ったかは覚えてないよ。
恥ずかしいから、あんまり聞くなよな。

あー…とにかく、だ。
大変は大変だったけど、なんとか収まりがついてさ。
収まりって言っても最悪の事態が避けられただけなんだけど。
どうにかこうにか、学校に着いたんだよ。
すぐ近くなのに、随分時間がかかったんだよね。

そん時に、次の放送が入ったんだな。
学校のスピーカー全部から聞こえたから、そらもうはっきり聞こえたよ。

それ聞いたらさ。
今までうなだれてた千鶴姉が突然…いや、今思うと長らく考えた後なんだろうけど。
兎に角、走り出したんだよね。どこへ行ったと思う?
ぐるっと校舎を回るとね。外に死体があるんだよ。誰だか知らないけど。
もう、だいぶ酷いことになってる死体に向かって一回だけ手を合わせてさ。
千鶴姉は爪を立てたんだ。腹のあたり。ざくざくとね。
止めようと思って駆け寄ろうとすると、来るなって言うんだ。
実際、狂ったかと思ったね。
んでさ。何かを、掴んで投げたんだ。

…どうなったかって?
なんにも。
なにも、起こらなかったんだよ。

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先ほどまで高槻が座っていた椅子に、ひとりの男が腰かける。
並んで入ってきたもう一人が横に立つ。
「で?どうすればいいんだ?」
「ロボットがレーダー見て追跡してるから、面白そうなところを大写しにしてもらって、
 死人が出たら主催者達に報告すりゃいいんだろ?」
「ふーん」
「これが画像モニターだろ。あっちがレーダーで、あっちが心音モニターだ。」
「…全然動いてないの多くないか?」
「そりゃお前。仏さんの心臓は動かないだろ」
「うわ、結構死んでるんだな…だいたいは女子供ばっかだろ?
 人間やればできるもんなんだなあ」
「お前が言えた立場かよ」
不謹慎に笑う二人に声がかかる。
「020、校舎内に移動しました。続いて017、061校舎内に移動します。
 モニターOFFしますか?」
「あん?」
「ああ、建物入ると見えないだろ。中で揉め事あっても面白味はないんだよな」
「なるほどね。いーよ、出てくるか誰か接近するまでOFFにして」
「了解」

しばらくして、今度は心音モニター側のロボットが口を開く。
「020、沈黙しました」
思った以上にたいくつな仕事だったことに気が付き、だれていた二人が目を見開く。
振り向けば020番と書かれた心音モニターに横線が流れている。
「お?」
「おおー…でも校舎内だぜ、勿体無い」
「これで校舎内の死体は四つになったなあ」
「怖い怖い」
おどける二人に再度声がかかる。
「017、061沈黙しました」
続けて二本が波形を収めて横線になる。
「おいおいおい、なんだよ相打ちかあ?」
「017と020って姉妹だろ?020なんか結構成績良かったのみたいなのになあ。
 061ってどんな奴よ?」
聞かれて、立っているほうがパラパラと名簿を確認する。
「んー…こんな、奴だ」
「……」
「……」
「見かけで判断しちゃ、いけねえな」
「そう、だな」

【017柏木梓 死亡】
【020柏木千鶴 死亡】
【061月宮あゆ 死亡】

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