そらのきおく
女の子が、涙を流している。長いかざりばねがとてもきれいな子。
あれはヒトの女の子だ。さっき、動かなくなったのも女の子。
ぼくとからだの色が一緒で、ぼくと一緒だったのがヒトの男。
男と女の子が寄り添って泣いているのを見ながら、ぼくはいろいろ考えていた。
ぼくはカラスだ。カラスは、鳥だ。そして女の子は、鳥じゃない。
ヒトの女の子。たしか、お母さんがそう教えてくれた気がする。
お母さん。あたたかくて、いいにおいがするもの。いつも傍にいてくれるもの。
でも、今はいない。どうしていないんだろう。
ぼくは、なぜひとりでこんなところにいるのだろう。
頭が……痛む。痛いのはいやなので、ぼくはそれ以上は考えないようにした。
とことこ。
ぼくは男と女の子の側に歩いてみる。二人ともぼくには気づかないみたいだ。
ぼくは気づいてもらおうと、ばっさばっさと羽を広げてみたがやっぱり気づいてくれなかった。
あきらめて、この二人を眺めることにする。
女の子が、涙を流している。その涙をぼくはどこかで見た気がした。
みすず。
そう、ぼくはこの女の子のことを知っていた気がする。
また、頭が痛み出した。でも、今度はそれでも考えることにした。
それはきっと大切なことだと思ったから。
ぼくは、どうして彼女を見ると懐かしい気持ちになるのだろう、と。
そして。
ぼくは、どうして彼女を見るとこんなにも悲しい気持ちになるのだろう、と。
ふいに。ひとつの風景がぼくの頭をよぎる。
女の子がいる。男もいる。他のなにかもいる。――そして、赤い色が見えた。
それはとても悲しい風景。なぜかぼくは、そんな気がした。