潜入


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「ねえ、ジュン?こんなところに来てどーしたの?」
「まあ、黙って見てろって…へへ……」

ピィン!!

「そら、開いたぜ」
「……??」

浩之と、あかりと…悲しみの再会を終えて……――
我々、北川隊員とヘレン隊員はとある商店街のはずれへと足を運んだ。
ここに一件の店がある。いわゆるスーパーマーケット略してスーパーというやつだ。
入り口は固く閉じられていたが、この俺の手にかかれば針金でちょいちょい…だ。
いや、護直伝のやりかたをマネただけなんだけどな。
あの頃の悪巧みがまさかこんなところで役に立つなんて皮肉なもんだぜ。
まあ、そんなこんなで―――

「―――我々はこのスーパーを占拠している」
「さっきから何ブツブツ言ってるデスカ?」
「いや、なんでもないなんでもないんだよ隊員2号」
「2号って何?オイシイ?」
(力の1号の方がよかったか?)
とにもかくも、慎重に身を潜めつつここまでやってきた二人。
随分とここまで時間がかかってしまったが幸い誰にも会うことなく…(ある意味不幸だな)ここまでやってこれた。
「護がいればこんな作業屁でもねぇのになぁ」
貧乏くじを引いたさえない少年のような顔で北川は目的の物を探す。
「スーパーで探し物……もずくデスカ?きっとたくさんあるヨ!!」
「ちが〜う!!と、とにかくあたりには気を配ってくれ。こんなところで襲われたら一瞬でミンチになる」
「Oh!!ミンチ…ワタシタチ狩られてしまうデスか…その時は狩られる前に狩る方が効率的ネ」

もしもの時はやむを得まい。殺られるわけにはいかないのだ。
先の放送……死亡者リストは最多の13人。北川の知り合いである水瀬名雪もその中に含まれていた。
そして、レミィの大切な友人達も、だ。

――バイバイ……大切な、トモダチ……――

レミィが見せたあの時の表情――今も忘れることはない。
忌まわしいゲームは今も続いている。今まで襲われたことのない二人はなんと幸運なことか。
だが、これからもそう…とはとても言えない。

もしもの時は…生き残るために応戦することも考えねばならなかった。
現在の二人の武器は…水鉄砲1丁、もずくのこり3パック、ノートパソコン。
(敵と出会ったときどうやってこの武器で戦う?考えろ、考えるんだ潤!!)
北川は頭の中で、まだ見たこともないような異星人との戦いをシミュレートしてみた。

1、ハンサムの潤は突如、反撃のアイデアがひらめく
2、仲間がきて助けてくれる
3、殺される。現実は非情である

(理想は相沢達と協力できれば――だから2なんだけどな…そう上手くはいかないよな…やっぱり1か…)
「ジュン…難しい顔してどうしたの?」
「もうすぐ俺、結婚するんスよ!」
「?」
「いや、すまん…ちょっと考え事をな……」
どんなに真面目に考えても、景色が赤く染まった吐き気のするビジョンが脳裏に浮かんだ。
「ジュンはワタシが守るかラ大丈夫よ!」
そう言いながら刀をぶんぶんと振り回す。
「そ、その刀どこにあったんだ?」
「さっき拾ったバックの中に入ってたヨ?」
「そ、そうか……」
すっかり失念していた。浩之のものと思われるバックの中にいくつか身を守る武器が入ってたじゃないか。
北川は少しだけ安心したように息を吐いた。かといって銃器に対抗できるのか?という危機感までは拭えないが。
「と、とにかく人の気配がしたら伝えてくれ…こんなスーパー誰も来ないとは思うけどな」
そう言いながら敷居に囲まれた売り場の一角へと足を運ぶ。
「ここに…なにがあるの?」
「やっぱ泥棒にみえるか?まあ見てろって……」
まわりには電気機器。パソコンやワープロ、電話などの電気機器が安置されている。
「やっぱ電気は通ってないな。まあ、予想通りだけどさ」

どっかりと座り込んで売り物である市販のビジネスソフトを開封し始める。
「わ、開けちゃってイイノ?」
「護と悪さしてたときは日常茶飯事だったぜ…」《――※注 犯罪です、良い子は決してマネしないでください――》
携帯していたノートパソコンを起動させると、売り物の怪しげな市販ソフトをインストールさせる。
さらに1/4と書かれたCDをソケットに入れて少し待つ。
「あー、やっぱりプロテクトが何重にもかけられてるな…へへ、腕がなるぜ…
 レミィ!懐中電灯とってくれ!」
「イエッサー!!」
暗闇の中、小さな明かりが点る。
怪しげな文字の羅列が下から上へと一気に流れていく。
その後、カタカタとキーボードを打ちこみながら北川は得意そうに鼻を鳴らした。
「何してるノ?」
「解析…わかるか?」
「サッパリです……」
「本当なら護の得意分野だ……って俺この手の分野で護より得意なものってあったっけな……」
そう言いながらもキーボードを打つ手はとまらない。
「ネット環境が整ってりゃあハックもできそうなんだけどな……こりゃあ骨が折れそうだ……
 なんちゅう厳重なプロテクトだ…よほど大事なものなんだろうな…
 解析に入るとウイルスまで侵入するようになってやがる……駆除駆除と……う〜ん…
 神奈備命?…誰だそれ…さっぱり分からん……
 ああっ、やっぱ駄目だ…護がいればなぁ……」
徐々に落胆の色が宿る。

「……??……サッパリです……」
「結局CDを全部集めなきゃ駄目ってことだ。それにマザーシステムみたいな所で使わないと意味がない」
「……?」
「これの他にCDが必要ってことだ。1枚は無記入だけど…1/4、2/4ってなってるだろ?他にも…最低2枚はあるってことだ。
 だけど……多分この分だとあと3枚はあるんじゃないかな?」
解析は成功であって失敗。
「昔、護――俺の従兄弟が言ってたことなんだが
 『俺にかかれば断片化された情報を並べなおして複製するなんてたやすいぜっ!』ってな。
 マネして残りのCDの複製を作ろうとしたんだが失敗……というかとてもじゃないが
 できるもんじゃない。うかつに偽物を使おうものならこの島ごとドッカン……だ」
「爆発するですか…」
「それに全部集めないと完全解析不可能ときている。たとえ護でも無理だ。
 だからやっぱり他のCDを探す必要がある…最低内容…CDの意味を理解するには3/4、4/4のCDが欲しいところだ」
おそらくCDの総数は北川の持つCDを入れて計6枚。
解析内容からそれだけはほぼ確信できた。

だが、その6枚が本当にこの島に存在しているのか。最悪の事態も考えられる。
例えばたった1枚だけでも敵が持っていたとしたら…
「というかそう考えるのが自然…だよなぁ…」
ここに3枚あるということはあと何枚か参加者がもっていたとしても不思議じゃない。
だが、これが本当に大事なものだとしたらすべて渡すとは考えられない。
最低1枚は敵が持っていると考えるのが普通だ。
「とりあえず大事なCDってことが確信できただけでもいいか…」
複雑に暗号化されたCDの中身。
すべてを集めて調べればそれが分かるかもしれない。
(前途多難だけどな…1歩前進だ)
とりあえずCDを集めさえすれば解析可能なノートパソコンに変化しただけでもOKとしよう。
――CDがおかあさんといっしょでなかったのは残念だけどな。
北川は強くそう思った。


「ジューン、おまたせーーっ!」
「どこ行ってたんだレミィ・クリストファー・ヘレン・ミヤウチ」
尋問するように言葉を吐く。
「食品売り場で新鮮な食料を手に入れて来たのヨ!!」
「おお、でかしたっ!腹がへっては戦はできぬとはよく言ったものよ…ささ、近う寄れ。
 ……で、ゲットした新鮮な食料とはっ……!?」
「もずくよもずく!1パックもずく58円の品々が全部タダよ!
 嬉しねハッピーね、タダで買い物なんて奥さん買い物ジョーズね!ほめてほめて!!」
「もずく……」
胃の中のもずく達がやんややんやと騒ぎ出す…
(まあまあ、慌てるなってもずく。もうすぐおまえ達の仲間が増えるからな喜べ)
なんとなく薄れゆく意識の中、北川はふと、そう思った。


【北川・レミィ もずく大量購入(しかもタダ)】
【ノートパソコンバージョンアップ】

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