導かぬ灯台
島の北端。
そこに白い灯台があった。
いや、それを灯台と言っていいのかは疑問が残る。
なぜならば。
その灯台は、何者も導かないからだ。
一見すると確かに灯台なのだが、照明の代わりに回転するのはレーダー
であり、発するのは誘導光ではなく地対空ミサイルだ。
強いて誰かを導くというのならば、死へと導くのみである。
かつて高槻が-----どの高槻かは解らないが、全員が自分だと思っている
以上、オリジナル寄りの高槻のどれかが-----最初にこの島に作った施設
であり、組織の方針で現在は放棄されているはずであったこの「導かぬ灯台」
の地下管制室にて三つの同じ声が言葉を交わしていた。
「そっちはどうだ?」
「随分高度があるから難儀したが…漸く捕捉したよ」
「…やるか?」
三人の視線の先に光点が一つ。
遥か上空にある監視者たちの航空機を示すそれを中央に据えて同じ顔が
不気味にほくそえむ。
「今ならまだ、ELPODはドッグから出ていない可能性が高い。
潜水艇で脱出するには最適のチャンスではあるな」
「爺どもを打ち落とし俺らは脱出する、確かに悪くない。
…だが島の連中をそのままにしていくのは気にいらんな」
そのような事は些事だ、オリジナルの高槻ならばそう判断したかもしれない。
しかし強く醜い感情だけが複製を繰り返すうちに際立っていったのだろう、
三人は一様に頷く。
「確かに、そもそもの元凶は連中がロクに踊らなかったせいだからな」
「少なくとも里村を倒し連中の誰よりも優秀である事を爺どもに見せつけねば
気が収まらんな」
「そして直後に爺どもを打ち落とし、俺達が最も優秀である事を組織の下っ端
どもに見せつけてやれば大手を振って帰れるというものだ」
明らかに反省心の無さと顕示欲、虚栄心の強さを窺わせる発言だが、やはり
三人同時に頷く。
「俺達三人の能力はほぼ同等だ。
恐らく里村に殺られたクズどもよりは優れているだろう」
「そして無線を使えば連携は完璧になる」
なんの根拠も無い予測とうらはらに、間違いなく有効であろうマイクとヘッドホン
が一体になった無線機を回す。
「更に言えば、俺にはこれがある」
一人が手に持ったそれは、水瀬秋子が持つものと同じレーダーであった。
今は何も映っていない。
今ここにいる高槻達は発信機を保持していないからだ。
何者かの位置を知る事があっても。
他人に位置を知られる事は無い。
「俺達の優位は絶対だ」
「俺達は無敵だ」
「クズどもに死をッ!」
「爺どもに死をッ!」
「「「死をッ!」」」
導かぬ灯台の隠し扉を抜けて再び地上に現れた三人は自らの発言と、
能力に酔っていた。
怪しく光る眼光は、まさしく狂信者のそれであった。
神を信じず。
人を信じず。
ただ自らのみを信じて、三匹の狂犬は目を光らせていた。