朱の鳥が鳴く頃に〜少年〜


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「……ここのことか?」
蝉丸たちと別れたあと、彼らがきた方向を逆に辿っていた少年は、
ようやくそれを見つけるに至った。

「しかし……ねえ」
地下の駆動音とやらは微妙にも聞こえてこないが、
確かにもし秘密基地のようなものがあるとすればここは妥当だった。

なにやら……埋まっているのだ、その建物のようなものは。

「直接地下に建造したのかねぇ……。しかし秘密基地と言うのも意外と的を得ているな」
場所を地理的に説明すれば、そこは島の北部、
スタート地点のホールから割と近い場所にある。

少年はとりあえずその周辺を歩いてみた。
するとすぐに”それ”は見つかった。
「……ここから入れそうだが、まさか入り口だなんてことは無い……か?」
なんというか……、そう地下鉄の構内への入り口を参考にしてもらえばいいだろうか。
あれが見た感じ埋まっているのである。
それほど天井や横幅は高く無い、というより狭い。
だが、少なくとも入り口と呼べそうなものはこれしかなかった。
「む……」
ズリズリズリ……。
狭い隙間を通り抜けようと試みる。

――行ける。

少年は鞄を近くに置き捨てると、本を片手にそこに侵入してみた。
着地しようとすると、埋まっているせいで本来の入り口よりも高くなっているが
そこまでどうしようもないものでもなかった。

「ここは……」
中はやけに寂れた空間だった。
何かの施設のようにも見える。倉庫といってもよいかも知れない。
……いや、ここから受けるイメージはむしろ、そうまるで防空壕のような避難所に近い。
少なくとも使われていないことは明白で、
とても能動的な活動をするところには思えなかった。

「これは外れだったかな」
少年はぼそっと呟く。
何かこのゲーム自体にかかわる情報が手に入らないかと少なからず期待していただけに、
それなりに落胆もした。

「まぁ、だからといって何が変わるわけでもないが」
通路が先にいくつか伸びている。
よく分からない建物の中で野営するというのも不安なので、
とりあえずこの建物の全容を把握しておくことにした。
不可解な駆動音とやらも気になるし、ね。

――少年は自分の幸運を知らない。
蝉丸たちが途なりにその”音”を発見しただけで、
それを発する建物の入り口などにはまだ至っていなかったことも知らない。
だが、確実に事態は動いていた――。

「……ん」
今度の道はずいぶんと寂れている。
しかもなにやら斜度が高い。
そんなにいかないうちにすぐ扉にぶつかった。
通路自体はそこで途切れているのだ……。
「開くのか?」
扉に手をかけ、それを引いてみる。

ギ……ギイイイイィィィィィィ……。

さびた蝶番が耳障りな音を響かせる。
密閉されたはずのその建物では音が響くはずは無かった。
しかし、その扉の先は違う。
その先は、広い空間だった。
岩盤を直接くりぬいて出来たような……、そのような空間。

少年の耳は、遠くかすかに聞こえる駆動音を聞き逃すことをしなかった。

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