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朱の鳥が鳴く頃に〜郁未〜


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数刻の休憩を経て、再び郁未は歩き出した。
ずいぶんと外見はボロボロになったが、
歩けないほど体力気力が激減しているわけでもない。
一つだけ心配をすることあるとすれば、
さっきのでとうとう食料が尽きてしまったということだ。
せめて歩けるうちにそれが見つかるといい、と思う。
まだまだあたりは暗い。
時計なんて持ってないが、どちらかと言えば夜だなんてことは
はっきりした時間帯だと思う。
少年は……どこまでいってしまったんだろう?
森が幾分か続き、そこを通り抜けていくうちに、
郁未も”そこ”へ至った。
暗い視界の中、本来なら容易に見逃すはずのそれを郁未は偶然に見つけた。
――と言うより、今の郁美にはどうしても見逃すわけには行かないものではあったが。

鞄、である。

「食料が入っているかも……」
そこに近づいて、郁未は鞄を漁ろうとする。
「……このにおいは」
そしてすぐに分かった。
あの懐かしい同居人の匂いが――。
「この近くにいるの?」
辺りを見回しても、その返事に答える者はいない。
だが、無意識に不可視の波動の残滓――本当に僅かではあるが――を追ったと言うのか、
あるいはそこにあることそれ自体が運命付けられていたとでも言うのか、
郁未はとうとう少年のすぐそばにまで来ていたのである。

だが、この暗闇で彼女がそれ以上のことに気付くことは無かった。
郁未は途方にくれていた。
「ホントにどこにいるの……」
仕方なくなって、無駄に歩くのもつまらないと感じた郁未は、
手近な木に寄りかかって、遅い睡眠をとることにした。
眠りには、予想より早く落ちた。


……まぶしい。
なんだろう、これは?
薄く目をを開くと光が差し込んでくる。
そう……太陽がもう昇っていたのね。
そしてその陽光の元に、黒い影となって誰かがいる。
その人は、影になっていなくても十分なほどに自分を黒で包んでいただろう。
”彼”がこっちに気づく。
そして振り向いて……。

「おはよう、郁未」

――朝焼けのさわやかさを、変わらないその微笑みに乗せて、少年は言った。

淡く光を照り返す銀髪も、体を包む黒い衣装も、全身を紅く返り血に濡らして――。

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