天を衝く剛拳
日が目を射す。
闘いの華やぎが、全てここに凝縮されている。
燦然とある輝きは、まさに俺たちの今この瞬間の輝きに等しい。
「フンッッ!」
老人の正拳を外手刀で受け流す。
だが次の瞬間、老人は反対の腕で掌底突きを放つ。
体勢は悪くない。
俺は重心をより低く落とし、そこから老人の腹目掛けて乱打を見舞う。
一発……二発……三発。
バシバシバシイィィッッ!
だが、攻撃されっぱなしの老人でもなかった。
バスンッッ!!
しゃがみこんで小さくなっていた俺の体を、老人の蹴りが一気に吹き飛ばす。
今度は老人にも追撃に余念がない。
そこから俺に向けてすかさず後ろ蹴りを出す。
俺にも痛がっている余裕は無い。
一時的な無呼吸運動。
すぐにヘッドスプリングで後方に跳びずさり、
そこから大振りの回し蹴りを老人のがら空きの背中に放つ。
当たった、だがまた”点”をずらされた。
見た目どおりのダメージは期待できないだろう。
そこから再び接近する。
老人の体躯はなるほど巨体だが、その分懐も大きい。
要するに、常人よりはいりやすいのだ、そこに。
もっとも、老人とてただの人間ではない。
広いぶん……と言う訳でもないだろうが、彼の間合い自体も広い。
俺の攻撃に即座に反応する……どころか、
後の先を取る事が出来る範囲がとにかく広い。
だから、それを無効化するためにはひたすら接近するより他に無かった。
そして俺は、そうし続けた。
だが打っても打っても老人は答えない。
いろいろな意味で化け物と言って差し支えが無いと思う。
本当の有効打に成り得そうだったものは、全て防ぐか避けられた。
この次元の闘い、一発の有効打が致命傷になる。
手数を並べる、それもまた戦法だった。
間合いに入ると同時に、左フックを仕掛ける。
「ふっ」
鋭い呼気が、老人の口から漏れる。
奴は俺の”それ”に左の肘で合わせてきた。
老人の”振り”の方が速い。
俺はまた”点”をずらされる。
老人はそこから即座に横蹴りへとつなぐ。
それは俺の顎にヒットし、勢いが付いて吹っ飛ばされた。
だが俺もただでは行かない。
その瞬間に老人の脛を踵で打った。
「ぐっ!?」
予想通り、痛みだけは十分だったようだ……。
一瞬の空中で俺は思った。
攻撃に集中していたせいで受身を取る余裕も無く、
あえなく俺は土の地面に擦り付けられた。
凄まじい摩擦が生じる。
土が焼け、皮膚もまた焼ける。
……どこか懐かしい、戦場の匂い。
俺は立ち上がる。
そしてもう何度目か――回数など忘れた――になるが、再び構えを取り直す。
俺の、本気の証明。
……前羽の構え。
老人は、武蔵坊弁慶よろしく仁王立ちをしている。
気が、高まっていく。
渾身の一撃が、次の時に放たれる。
そんなことが予感として分かった。
研ぎ澄まされていく感覚、強化兵の業として、日中ではその力を十二分に発揮できない。
それなのに、自分と言うものがさらに高まっていく。
精神、そして肉体も。
武人の血が、仙命樹のそれをも凌駕したと言うのか?
俺は一人笑う。
誰にも分からないほどに、微かに笑う。
「……」
沈黙、そして――。
「でりゃあああぁぁぁぁ!!」
老人が飛んだ!
必殺の飛び蹴り、最初の時にはなったそれとは勢いも気迫も威力も段違いだ。
避ける?
そんなことは考えない。
そうやって前は負けた。
ならば、全力の一撃には全力の一撃を以って応えるのみ!
蝉丸は完全な左半身になり、全ての関節に溜めを作った。
――奇しくも、先の源四郎と同じように。
空を疾る、源四郎の裂脚。
交錯する二者の影。
天を衝く、蝉丸の鉄拳。
最後の瞬間、そこに立っていた影は唯一つだけだった。