騙し騙されて


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真実がどうなっているのか、いくら考えたって判る筈はなかったけれど。
それでも、あたしの頭は捕われた二人の仲間のことで一杯だった。

皆で相談した結果、人質作戦そのものに疑念を抱き、そして反攻を試みる
ためにあたしは仲間を探した。
けれど、見つかった仲間は由依ひとり。そして、あかりは殺されてしまった。
次の放送で智子の名が流れたならば、あたしの決断は誤りだったと認め
ざるを得ない。

そうだ。あかりを殺したのは、高槻からの警告だったのかもしれない。
勿論、人質が偽装であかりはどこかで他の誰かに殺された可能性もあるが、
どうしても高槻の顔が脳裏から離れない。

現在、高槻は何らかの理由で放逐されている。
…智子はどうなったのだろう?放送では智子のことには一切触れていなかった。
捕われていること自体知らないのかもしれないし、やはり偽装で捕われてなど
いなかったのかもしれない。

少しだけ由依と相談した。
やはり考えたのは同じようなことで、結論も同じようなものだった。

-----わからない。

答は、高槻だけが知っている。



大海原のように波立つ草原の中で、あたし達は高槻を発見した。
手ごろな岩にだらしなく腰掛け、拳銃片手にこちらを眺めている。
いつものように、唇の端を片方だけ引き上げて。
あたし達が来るのを知っていたかのように、高槻は立っていた。

「おっと、そこまでだ」
高槻が拳銃を構えて制止する。
この距離では抵抗のしようがない。あたし達は素直に停止した。
あたしの武器は刀、由依はダイナマイト。近距離まで密着するか、こちらが先に
発見するかしない限りは勝ち目のない組み合わせだった。

「二人揃って散歩とは、随分余裕だな?」
「そういうアンタは、落ちぶれたもんね」
ふざけた台詞に辛辣な言葉を返したが、高槻はどこ吹く風といった表情だ。

「ハハハ!相変わらず気の強い、いい女だなC-219ッ!?」
「その呼び方やめなさい!あたしには巳間晴香という名前があるわ!」
そう言って一歩前に-----斜め前に、出る。
由依が半ば隠れるように、怒りのゼスチャーで大袈裟に手を広げる。

(晴香さん…)
うしろで由依がカチリとライターをつけ、声をかける。
ダイナマイトの着火用に、家から持ち出したものだ。
(…届かないけど、目くらましくらいにはなると思います…)
あたしは高槻に判らない程度に頷き、小声で返す。
(…智子の行方が知りたいわ。それまで待ってて)
(…はい)

大丈夫、うまく隠せている。高槻は気が付かない。
相変わらず得意げな表情のまま口を開く。
「ま、そう怒るな。お前にいい情報をくれてやろうと思って待ってたんだ」
「いい情報?」
「そうだ、気になっているんだろう?」
「…何のことよ」
身を硬くして睨みつけるあたしの視線を、おどけた表情で高槻が返す。

「保科智子な、次の放送前に死ぬぞ」
「!?」
来た。この話題を待っていた。
演技だけではなく何も口に出せなかったが、高槻は調子にのって続ける。
「今の俺はこのザマだが、俺の命令自体はまだ生きている。
 神岸あかりを殺したのも、俺じゃあない。
 俺の命令を受けた部下が殺したのさ!」
その前に美味しくいただいたのは、この俺だがな、といやらしく笑う。

「た…高槻っ!」
「ハハハハハ!悔しいか!?悔しいだろうッ!?だが俺も悔しいッ!
 あとの楽しみに取っておいた保科を食わずにいたのが悔しいぞッ!!」
小躍りして狂ったように笑う高槻。
いや、こいつが狂っているのは元からだ。
(…いくわよ、由依)
(…はい)

「…高槻!」
「どうした、は・る・か?」
挑発のためか、わざと名前を強調して呼ぶ。
だが、もう気にはならない。殺すだけだ。

「…ゲスな言葉は、もうたくさんよ!」
あたしの頭上を越えて、ダイナマイトがふんわりと弧を描き飛んでいく。
間もなく起こるであろう爆風と応射を避けるため、身をかがめ草原に姿を
隠しながら、あたし達は走った。

高槻を倒し、銃を奪い智子を救出する。
それは決して不可能なことじゃないはずだ。


でも…何かひとつ、忘れていないだろうか?

致命的な、何かを。

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