discovery
結界の待つ神社目指して出発したスフィー一行であったが、相変わらず神社の詳しい場所はわからず
(家の中に地図がないか探してみたものの無駄だった)、昨日と同様行っては戻り、行っては戻りを
繰り返しながら進んでいた。
「ところで、神社ってどんな感じなの?」
「……」
「そう、やけに古くて、ちょっと押しただけで壊れそうな感じの…」
言い終わらない内に、視界の中からスフィーが消えた。
「…え?」
突然の出来事に結花たちがびっくりしていると、下の方から「あいたた…」と声がする。
道端の斜面を注意深く降りてみたら、そこには水たまりにはまったスフィーがいた。
「もう、足下をよく見てないから。ここが谷底だったらどうするのよ!」
「…ごめんなさい」
ばつの悪そうな顔をするスフィー。
「……」
「そうね、無事そうでよかった」
「でも、服濡れちゃった」
「しょうがないわね。服が乾くまで休憩」
結局、3人はスフィーの服が乾くまで一休み、ということになった。
スフィーは服を脱ぐのを嫌がったのだが、結局上着だけを木に引っかけ、荷物の方は鞄から引っぱり出して、
虫干しのように乾かした。
もちろん荷物の中には、例の魔術書もどきもある。
しばらくして、生乾きになった所で荷物をしまい始めた結花が、その魔術書もどきの乾き具合を
見ようと本をパラパラめくっていた時、ページの一部が不自然にふやけていたのを見つけた。
よく見ると、ページの端が2枚に割れている。
紙が破れないようにゆっくり分けていくと、今までなかった文章が目に留まった。
<071 長谷部彩 「Jamming Book Store」という名のサークルを営む同人作家。…>
「これって…」
結花はすぐさまスフィーと芹香を呼び寄せた。
それから、3人がかりで全てのページを割く作業が始まった。
紙の中に隠されたページには、ロワイヤルに参加した100人分の顔写真、名前とプロフィール、
さらに特殊能力を持つ人はその能力の種類まで書かれていた。
「ふぁ〜、これってすごいよ」
「……」
しかし、中身はそれだけではなかった。
本の最後には「STAFF」と書かれたページもあった。そこには、3人が知っている名前が書かれていたのだ。
「長瀬源之助って…、あの長瀬さん? どうしてスタッフなんかやってる訳?」
「……」
「えっ、芹香さんも…」
思わぬ展開に、3人はただ困惑するばかり。
とりあえず3人で話を突き合わせながら、死者の名前に線を引いていく。
結花は生存者のデータを見ながら、
「う〜ん、鬼の力とか不可視の力とか書かれても…。なんか結界に関係のありそうな
特殊能力ってないのかなぁ」
と、強気で鳴らす結花にしては珍しく考え込んでいた。
「それに、長瀬さんがスタッフだなんて…。なんだか訳がわからなくなってきた」
「私もだよ」
スフィーと二人して悩んでいる所へ、
「……」
芹香が話しかけてきた。そして本をパラパラとめくって、
「033 国崎往人」と書かれたページを指さした。
「……」
「法術、かぁ」
「法術ってなに?」
他の二人はよくわかってないようだった。
芹香が一通り説明して、
「あ〜、そういう事かぁ」
「……」
「でも、この人がどこにいるのかもわからないし、むやみに探すのはかえって危険だと思うけど」
「……」
「うん。あくまで向こうからやってきた場合、ね」
「……」
「スフィーはもう大丈夫?」
「オッケー」
「それじゃ出発ね。あ、斜面を登るときは注意するのよ、スフィー」
「は〜い」
斜面を登るスフィーたちの頭上数千メートル。
浮遊物体の中で、その一部始終を手元の小さいモニターで見ていた老人がいた。
「ほほう、ようやく気が付きましたか。ただ遅きに失した感じもしますが」
その老人―長瀬源之助は小さな笑みを浮かべつつ、
「ま、儂からのささやかなプレゼント、といった所ですかな」
静かにつぶやいた。
参加者100人に渡された武器や道具は、基本的にはアトランダムに配られたものだ。
しかし、一部の人間に特定の品物を渡させる権限くらいは、源之助にはあった。
そこで源之助は参加者の名簿をスフィーに託すことにしたのだ。もちろん名簿は極秘扱いだから、
それなりの細工を施しておいた訳だが。
(実はリアンに渡したトレカにもある細工をしてあった。もっとも、今となっては下界でそれを確かめる術はない)
「さてこの名簿をどう使うか、お手並み拝見ですのう。ホッホッホッ…」
思わず笑いがこぼれた源之助に、フランク長瀬が、
「源之助殿、何か可笑しい出来事でもあったのですか?」
そう尋ねたので、
「いやいや、年寄りの戯れじゃよ」
と答えつつ、モニターの画像を切り替えた。
結界の待つ神社へ向かうスフィー・結花・芹香。
一行がいつになったら神社にたどり着けるか、まだ誰にもわからない。
スフィー【魔術書もどき→参加者名簿と判明】