命の炎〜鈴の音〜
「ふふふ、お姉ちゃん」
甘えるような声で佳乃ちゃんがセンセイに近づく。
この場にとっても不釣合いな声。
だけど、佳乃ちゃんの表情はもっと声に合っていなかった。
私は、何も言えずにただ二人の悲しき再開を見守るしかできなかった。
「ごめん……もう、いいよ」
ゴシゴシと腕の包帯で乱暴に顔を拭うと、佳乃ちゃんは今度こそ、笑った。
私も、佳乃ちゃんも…もう全部傷ついていた。
「……ん……」
短く、そう答える。
私達、もうボロボロだった。
格好も、心も。
鏡を見たらお互い卒倒しちゃうんだろうか…とか思ってたりする。
血と、泥で彩られた衣類、同じくマーブル状に変化してしまっている包帯。
私の首にはひどく腫れあがってしまった紫色(だと思う)の痣。
さらに体中のあちこちがひどく痛む。たぶん打撲症。
木々に打ち付けられた体が、筋肉痛のように悲鳴をあげていた。
それ以上に、私達はあまりにひどい現実を目のあたりにしてきた。
泣いても叫んでも、願っても、祈っても…変わらなかった現実。
目にうつる景色は、私達を包んでくれてる大自然はこんなにも穏やかなのに……
いつもと何も変わらなかったはずなのに。
ここ2、3日の記憶は、まるで出来の悪い、だけどどこか心に残る映画のフィルムのようで。
ひどくつまらない。だけど、こんなにも痛くて、悲しい。
だけど、泣き言は言いたくない。
佳乃ちゃんも、矢が刺さっていた左腕が力なくだらりと下がっている。
ついさっきからだ。無理して動かしてしまってたせいかもしれない。
もしかしたら動かないのかもしれない。
なにも言ってくれないけど…心配させたくないってことかな。
だから、弱音は絶対に吐きたくなかった。
そして私達は歩きはじめた。前を向いて。
(こんなクソシナリオ…私達で変えてやるんだからっ!)
「行こうっ!佳乃ちゃん……」
「うんっ!」
私達、手を取り合って歩く。
もう、悲しい現実が起こらないようにと願って。
チリン……
風の音にまぎれて、どこかで鈴の音が鳴った気がした。