命の炎〜現実〜
「往人くんに会いたい」
佳乃ちゃんが唐突にそう切り出した。
「往人くん?」
「えっと…国崎往人くん…この島にいる、私とお姉ちゃんの友達だよ」
はにかんだように笑う佳乃ちゃん、今までのどの表情とも違う。
「好きなの?その人のこと…?」
「えっ…違う、違うよぉ」
必死で否定する佳乃ちゃんの言葉に力はなかった。
「…だけど…一番信用したい友達……」
「そっか……」
私は女心に、やっぱり好きなんだな…って思うことにした。
その人の事は知らないけど…佳乃ちゃんの心を奪った騎士様、私も信頼してあげたい。
「でも、どこにいるか分からないね…」
「きっと会えるよっ」
「ど、どうして?」
「信じてるから…かな?」
また、照れたように笑った。
「往人くんなら『こんなゲームは俺がぶち壊してやるっ!』とか言ってたくましく生きてると思う。
だから…生きてさえいればきっと会えるはずだよぉ」
底抜けに明るい声。空元気なのかもしれないけど、私まで元気にさせてくれる。
そんな声だった。
「じゃあ、探索の一番の目的は往人さんを探す…これで行こっか?」
「うん!じゃあ、脱出へ向けて…しゅっぱつしんこ〜!!」
えいえいお〜と言わんばかりに右手を振り上げながら佳乃ちゃんが歩く。
ちょっとだけ苦笑い。うらやましいな。
佳乃ちゃんに想われるその知らない誰かも。
藤井さんに想われるお姉ちゃんも。
そして、今はもう還らないあの人を想っていた少し前の私も。
少しだけ、うらやましかった。
現実はいつも唐突で…
――私は医者だ。しかも腕のいい医者だ。患者の嘘くらい見抜けないようではな――
――マナ君、逃げろっ――
今ある現実はあまりにつらくて……
――今、自分がどういう状態に置かれてるかわかってるの?
今度会う時に私があなたを殺さない保証は何もないのよ?――
――俺が……弱かったんだよ――
しっかりと目の前の出来事を理解することもできず、
悲しみに暮れても時は過ぎていって……
――あなたは、その子よりも弱いのよ。
肉親を失った子でも、生きようと決めたのね。
それでもあなたは、死ぬの?――
私の気持ちはいつも、時の流れのなかに置いていかれていて…
――もう一人の方…とどめさしたほうがいいよね?
――
――……由綺さんがそう…おっしゃるのならば…――
――……最低ね――
――ああ、だから俺は、こんな方法しか取れないんだ……――
ただ私は……みんなで笑いあっていられればよかったのに……
――早く連れてって!このノロマッ!!――
――もうこれ以上由綺の手が汚れるのを
見ていたくはなかったんだ。汚れるのは俺だけでいいと思ったんだよ――
――――…君は、強いね――
私だけが…ただこの場所で流されるように生きてきた。
私は…強くなんか、ない。
だけど、これからは強くなろう…
いつの日か、心から笑えるように、と。
せめて、私達は精一杯生きていこう…
――私がやったことは…許されないかもしれないけど…本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?――
そうすれば、センセイや藤井さん、みんな、きっと笑ってくれるって、思ってた…
パラララララララララララララララッ!!
思ってたのに。
現実は私の思いを断ち切るかのようにそれを遮った。
目の前の佳乃ちゃんが、マリオネットのように踊った。
赤い、血と共に。