命の炎〜生きるということ〜
「佳乃ちゃん……!!」 
銃声が響く。 
それでも私はロープを投げつづけた。 
あきらめたくなかったから。 
だけど、私の力だと、あの窓までロープは届かなくって。
崖をまた三叉の鉤爪がえぐった。 
「佳乃ちゃん…!!」 
幾度ロープを放ったんだろう。 
焦げ臭い匂い。 
それに気づいた瞬間、館を勢いよく炎が走りぬけた。
「そんな…佳乃ちゃん…」 
あまりに圧倒的なその炎の威力は、私のその行動を止めるのに充分だった。
私はゆっくりと崖から離れてその燃える館を見つめた。
「生きていこうよって…一緒に脱出しようって…言ったのに…
 往人さんに会いたいって…言ったのに…ばか佳乃っ!!」
どんどん大事な人が消えていく、私だけをこの現実の時の中に置き去りにして。
「私にどうしてほしいわけっ!!」 
まだ見えない、雲の上、空の向こうへ叫んだ。 
「私は殺したくないっ!死にたくないっ!! 
 ただみんなで笑いあいたいっ! 
 生きていきたいって思うだけっ!! 
 なのにどうして…」 
なじった。誰にでもなく。 
憎むべき相手なんか、いない。分からない。 
だけど…このやるせない私の心はどうすればいいのっ!?
どうしようもないその現実に、私はあまりに無力で。
気がついたら、私は血が滲むほどに拳を強く握り締めていた。
(私…負けない…負けたくない…) 
――生きてさえいればきっと会えるはずだよぉ 
佳乃ちゃんの言葉を…きよみさんやセンセイを思い出す。
「往人さん…だったっけ…」 
もういない、佳乃ちゃんに向けてそう問いかける。
「私が探す……ね」 
やっぱり私に出来ることはそれだけだから。 
センセイの荷物にロープをしまって。 
流した涙も、はりさけそうな思いも、私の心の奥にしまって。
「もう、行くね…バイバイ、佳乃ちゃん」 
冷たい女って思われるかもしれないけど、それでもいい。
後ろ髪ひかれそうな中、私は立ち上がる。 
心の中のみんなが、笑ってくれるなら…それでいい。
こんなクソシナリオを変えてやるんだから… 
絶対生きて帰る…ハッピーエンドに変えてやるんだから。
でも、私の心に本当のハッピーエンドなんてもう…来そうもなかった。