道中、ふと思うこと
正直俺はあいつを見直してたんだよ。
奴と闘ったのはたしか季節が5つ程も前。
何度も向かってきては俺に倒される。そのたびに立ち上がってきた。
弱っちい奴だ、なんて思ってたんだがね。
まあ、そんな奴でも、俺に向かってくる根性だけは認めてやったつもりだけどな。
終生のライバル……そんな風に思われるのは心外だった。
――いや、ほんとのところはどう思ってるか知んないけどな。
爺いが倒れて、その相棒の女の命がやばくなった時……
躊躇せずに突っ込んでやったさ。(こう見えてもフェミニストなんだよ、俺はな)
あいつはただ横で震えていて…情けない奴…とか思ったね。
腕に思いっきり体当たりしてやった。
あの素っ頓狂なロボットの顔…傑作だったぜ。
だけどな、やっぱウエイト差ってのがあると俺もツライんだよな。
女を無視して、こっちに銃を向けられたとき…俺ももう駄目か…とか思ったよ。
『死』というまぎれもない事実が近づいてきたとき…俺もさすがに震えた。
逃げなきゃ…と思っても体が動かなかった。
そんな時だよ、あいつが突っ込んできたのは。
「にゃあ〜っ!!」
弱っちい猫畜生のくせに、ロボットの顔にへばりついてよ…
その後はまあ――おほん――俺らが敵うはずもなくてな…殺されなかっただけでも幸いか。
ほんと、少しだけ見直したんだよ、あいつは、俺と、女の危機を救ったんだからな。
(本当はなんで胸を撃ちぬかれたはずの爺いが生きてたのか…のほうが気になってるんだけどな)
さっきもそうだ。爺いと女、そして俺が震え上がっていた時、あいつは躊躇せず飛び出した。
「ねこーねこー」
その世にも恐ろしい姿をした女があいつを手招きする。
いや、そりゃああいつは猫だしな。だけどねこって呼ばれてむかつかないのかね…
俺が「いぬー、いぬー」なんて呼ばれたら蹴り殺してしまいそうだぜ。
まあ、あの女は絶対に蹴れないけどな…恐いから。
まあ、そんなわけであいつを見直したんだけど…それもさっきまでの話。
――まあ、やっぱ駄目だわ、あいつ。
結局、あいつは今も俺の横で震えている。
なんでも一時期飼われてた時の水瀬秋子っていう家主(一番えらい人のことらしい)なんだとよ。
どうにも様子が変らしくてな…自分をその娘の名雪だって言い張ってるらしい。
(ちなみに、その秋子って奴が背負ってる、頭が割れたピーナッツみたいになってる奴が水瀬名雪らしいな。
つーか、それを見ただけで様子が変だって気づくだろ?普通…)
やっぱ猫畜生にゃその程度が限界なのかねぇ…そのうちこいつ命落とすぞ、いや、マジで。
おかげで死刑台に向かう囚人みたいにその女に同行させられてるんだよな…こいつのせいで。
俺らまで殺されたらたまったもんじゃないよ、まったく。
自己防衛の意味も含めて、このクソ猫に言ってやったさ。
「ぴっこり」
(がああっ、うるせえんだよさっきから…この毛玉っ!!静かにしてろっ!!)
なんだ、爺いでも前の女が恐いのか…そんなに声をひそめてさ…
それにしてもがみがみうるせえ爺いだな…カルシウム足んねえんじゃねえのか?
ちゃんと食えよ、老い先短いんだからな、爺い。
あんま怒鳴ると踊るぞ、こんちくしょう……
「ぴっこ…ぴっこ…♪」
(だからうるせぇっ!!)
ち、俺の踊りを理解できないとは…多少腕は立つようだがまだまだだな、爺い。
ほんとはあの女から逃げろって本能が騒いでたけど(騒がなくても逃げたいよ、ずっと背中から血が滴ってんだぜ。
気の弱い奴ならそんな後姿を見ただけで卒倒するね)しょうがないからついて行ってやるか。
この爺いも、相棒の女も、横で震えているこいつも…俺がいなきゃ心細いだろうしな。